秘密集会 聖者流 生起次第 | 仏教の瞑想法と修行体系

秘密集会 聖者流 生起次第

ゲルグ派が最重視する「秘密集会(グヒヤサマージャ)タントラ」の聖者流の生起次第である「秘密集会成就法清浄ヨガ次第」を紹介します。

「秘密集会タントラ」は無上ヨガ・クラスの経典で、チベットでは一般に父タントラと分類しますが、ゲルグ派は根本タントラとします。
インドでは「秘密集会タントラ」には、「聖者流」と「ジュニャナパーダ流」の2つの流派があります。
ゲルグ派は「聖者流」を継承しています。


全体の構成は、「初加行三摩地」→「曼陀羅最勝王三摩地」→「羯摩最勝王三摩地」という3つの観想で構成されます。
それぞれはさらに細かく分けられ、全部で49次第となります。

「初加行三摩地」(1-33)は、「最初の三昧」という意味の観想法です。
自利として、仏の三身を獲得する観想(三身修道)の後、主尊阿閦金剛と一体化する「成就法」を観想し、最後に性ヨガにより「大楽」を得る観想を行います。

「曼陀羅最勝王三摩地」(34-39)は「最高の曼荼羅の王の三昧」という意味の観想法です。
曼荼羅の諸尊を性ヨガで生み出して利他を行う観想をします。

「羯摩最勝王三摩地」(40-49)は「最高の行為の王の三昧」という意味の観想法です。
「微細ヨガ」、「金剛念誦」などを行い、他の仏国土へ顕現して利他を行うと観想します。


<初加行三摩地>

「初加行三摩地」はさらに6つの観想に分けられます。
「前行(1-11)」→「根本ヨガ(12-14)」→「アヌ(付随)ヨガ(15-17)」→「アティ(甚深)ヨガ(18-24)」→「マハー(大いなる)ヨガ(25-30)」→「マハーサーダナ(大成就)(31-33)」です。


<<前行>>

「前行」では、まず、「発菩提心」の観想を行います。
胸に阿閦金剛の曼荼羅を観想し、自ら阿閦金剛となって人々を救おうと慈悲を発し、供養、礼拝、受戒などの観想を行います。

次に、結界(防護)の観想を行います。
自ら瞋金剛(怒れる阿閦金剛)になって、10の忿怒尊を女尊との性ヨガによって生み出し、プルパ(橛)を使って魔物を追い払い、曼荼羅の外周の結界(世俗諦防護)を観想します。
次に、「空性」を観想し、これを「勝義諦の防護」とします。
最後の部分は「死」のプロセスとされます。

次に、まず、曼陀羅の基礎部分(土地や建物など)を、そして自分自身を阿閦金剛であると思いながら、諸尊を生成して観想します。
女尊との性ヨガによって生じる菩提心が発する光によってすべての生き物を灌頂すると、彼らは金剛薩埵になり、彼らの国は仏国土になると観想します。
この部分は「中有のプロセス」とされます。

次に、諸尊を勧請し、自分の身体に配置し、身体が本来は仏達と同じであると観想します。
同時に、仏に等しい劫初人(アダムのような原人間)が堕落して人間となったと観想します。
この部分は「生のプロセス」とされます。

「前行」は、現在の煩悩のある自分の三身と世界が生まれた「死・中有・再生」のプロセスの観想という意味があります。


<<根本ヨガ>>

「根本ヨガ」では、仏として「死のプロセス」を観想して浄化することで、仏の法身(聖者流では「持金剛」)を獲得する観想を行います。
具体的には、身体曼荼羅の諸尊が光明に融解する観想です。
人が死ぬ時は、視覚的な体験として「光明」を見るからです。

その後、3種光明(日・月・赤い蓮華)をそれぞれ種子から月輪になると観想します。
これは「五現等覚」の①日輪、②月輪の段階です。
そして、そこに曼陀羅を取り込む観想を行います。
この観想は次につながるプロセスです。


<<アヌ・ヨガ>>

「アヌ・ヨガ」では、仏として「中有のプロセス(死後に魂の体が生まれるプロセス)」を観想して浄化することで、仏の報身(阿閦金剛)を獲得する観想を行います。
具体的には、月輪に3字、五鈷杵、本初仏を観想します。
これは「五現等覚」の③種子、④象徴物、⑤仏身の段階です。


<<アティ・ヨガ>>

「アティ・ヨガ」では、仏として「再生のプロセス」を観想して浄化することで、仏の応身(金剛薩埵)を獲得する観想を行います。
再生のプロセスは、仏である両親の性行によりへ変化身の胎児として生まれるという観想です。
具体的には、阿閦と妃の混合液が無数の阿閦となり宮殿に溶融し、自身に吸収、変化身の金剛薩埵になると観想します。

そして、諸尊を身体に配置、心身と対応づけます。
これを「身曼荼羅」と呼びます。


<<マハー・ヨガ>>

「マハー・ヨガ」では、持金剛と一体する「成就法(本尊ヨガ・我生起)」と呼ばれる観想を行います。
仏と自分を一体化する観想を行う、自分を仏として観想するというのは、密教の特徴です。
正式な灌頂を受けていないと、この観想は行ってはいけないことになっています。

「マハー・ヨガ」の観想は、具体的には、身・口・意の3種類の金剛を光明として身体に導入して加持を受けます。

まず、「身金剛」の場合は、頭頂に白いオーム種子→月輪→白いオーム種子→五色の光明と観想します。
光明に誘われて女尊(仏眼母)と仏(毘廬遮那如来=身金剛)が現れて性ヨガを行うと、眷属達と共に光明の融解する頭頂から入って来て、身体の自在を得たと観想します。

次に、「口金剛(語金剛)」の場合は、舌に赤いアーハ種子→蓮華→赤いアーハ種子→五色の光明と観想します。
光明に誘われて女尊(白衣母)と仏(無量光如来=口金剛)が現れて性ヨガを行うと、眷属達と共に光明の融解する舌から入って来て、言葉の自在を得たと観想します。

最後に、「意金剛」の場合は、心臓に青いフーム種子→日輪→青いフーム種子→五色の光明と観想します。
光明に誘われて女尊(マーマキー)と仏(阿閦如来=意金剛)が現れて性ヨガを行うと、眷属達と共に光明の融解する心臓から入って来て、身体の自在を得たと観想します。

以上の観想によって3種類の金剛を得ます。
これによって貪・瞋・癡の三毒を浄化すると考える場合もあります。

次に、自分自身を青い持金剛と観想します。
この時の持金剛のイメージは、自分で思い描いた、清浄な心の現れの象徴であり、「サンマヤサットヴァ(三昧耶薩埵)」と呼ばれます。

次に、胸に微細な、父母仏(性ヨガによって合体した仏と女尊)としての持金剛を観想します。
これは、作為的に描いたイメージではなく、自然に現れて動く「ジュニャーナサットヴァ」と呼ばれる存在になります。
これは清浄な心の現れそのものであり、そういう意味で観想を越えています。
「ジュニャーナサットヴァ」は大きくなっていき、「サンマヤサットヴァ」と一体化します。

さらに、「ジュニャーナサットヴァ」の心臓に、月輪→青い金剛→青いフーム字を観想します。
このフーム字が「サマディサットヴァ(三昧薩埵)」と呼ばれる存在になります。
思い描いたフーム字のイメージと音・光のイメージが、イメージ以前の原初的な清浄な心の現れの象徴であるのに対して、「サマディサットヴァ」は、その根源的な清浄な心の現れそのものです。


<<マハーサーダナ>>

「マハーサーダナ」では、「究竟次第」の疑似体験として、性ヨガで「大楽」を得る観想を行います。
実際の性ヨガは気のコントロールが不可欠ですが、「生起次第」では観想で行います。

具体的には、頭頂で持金剛が性ヨガを行うと、甘露が落ちてきて自分の全身を浄化すると観想します。
次に、身体に諸尊を配置した触金剛女を観想し、自分は宝生如来になって性ヨガを行い「大楽」を得ると観想します。
さらに、不空成就如来になって「大楽」ですべての仏を供養すると観想します。


<曼陀羅最勝王三摩地>

曼陀羅最勝王三摩地は、曼荼羅の諸尊を性ヨガで生み出して、利他を行うことを観想します。

1 具体的には、自分自身が阿閦金剛であるとして、女尊の蓮華に性射して諸尊の曼荼羅を生成します。
2 そして、それを男根で吸い取り、順次、マントラと共に諸尊を心臓を通して、外にあらゆる方向に放出(出産)します。(広観)
3 出産された諸尊は諸世界で説法などをします。
4 諸尊を一つに集めます。(歛観)
5 ジュニャーナサットヴァを呼び出し、諸尊と一体化します。
6 諸尊の頭頂にいる父母仏が菩提心によって灌頂します。
7 再び諸尊は各所に散り、安住します。

諸尊は、阿閦金剛、触金剛女、四仏、四仏母、四金剛女、八菩薩、十忿怒尊と、順次生み出し、働かせます。

最後に、諸尊と同様に、曼荼羅の宮殿を観想し、外に出し、世界を浄化し、一つにまとめて、宮殿のジュニャーナサットヴァと融一させます。

以上の観想では、自分は主尊であると観想しながら行います。

ちなみに、以上の観想は、「粗大なる主尊(念)のヨガ」と呼ばれます。


<羯摩最勝王三摩地>

羯摩最勝王三摩地では、究竟次第の準備としての微細ヨガ、金剛念誦、他の仏国土に再生しての利他などを観想します。

まず、男根の先に日輪上の五鈷杵を観想して、虚空に拡大・集瞼します。
そして、五鈷杵を主尊の仏身にして、虚空に拡大・収斂し、最後に胸に収斂すると観想します。

次に、男根の先に日輪の上の心滴を観想し、蓮華に放出し、その中に曼陀羅を観想し、諸尊を生成します。

以上は「微細なる分別のヨガ(微細ヨガ)」と呼ばれます。
身体上の一点に集中するので、気をコントロールする「究竟次第」の瞑想の準備となります。

次に、マントラを唱えながら、真言鬘(マントラを数珠つなぎにしたもの)を女尊の口・蓮華との間で循環させます。
「金剛念誦」という観想・念誦法です。
これは、変化身として法を説くつもりで行います。

次に、この地での利他が終了したとして、光明へ融解する観想を行います。
そして、四仏母が勧請し、阿閦金剛として他の仏国土に再顕現し、あらゆる仏達に誉め讃えられ、仏達に3種の供養を捧げると観想します。

最後の観想として、曼陀羅を合体した父母仏に吸収し、父母仏が性ヨガによる菩提心であらゆる存在を灌頂すると、彼らは浄化されてフーム字に変化し、虚空に満ちると観想します。
そして、女尊が主尊に溶け込み、主尊である自分が持金剛になり、光明を放つと、虚空いっぱいに満ちているフーム字を吸収すると観想します。

最後に「後行」についての記述があります。
食事の際の観想法、身体を壮健にする観想法、悉地(超能力)の成就に関する説明です。