場所は栃木県から茨城県に流れる那珂川を選んだ。
比較的穏やかな川相で初心者向きというのと、関東の四万十川といわれるのどかな景観と、そこそこの水質を持つ川だ。

99年 もっとも最長区間をキャンプツーリングしたときの出廷風景。
写真 井上勝夫
寒風の吹く96年の2月。もっともポピュラーな烏山~御前山の区間を下った。
出艇場所でカヤックを組み立てている間中、ぼくはずっとドキドキしていた。
オモチャのビニールボートで渓流を下ったことはあるが、そのときはまるで操縦不能だったのだ。
野田知祐氏の言う[流れのあるところではがむしゃらに漕ぐこと]をもう一度頭に叩き込み流れに乗り出した。
無事に漕ぎだしたぼくを見届けた友人は車で次の橋へと向かい、ぼくはひとりっきりになった。
順調に漕ぎ進んでいると瀬音が聞こえてきた。いよいよである。いったん上陸して下見をしたが轟音を上げて波立つ瀬を見ていっぺんに嫌になってしまった。
今見ればなんてことない瀬なんだろうが、初めて出会った瀬はとてつもなく邪悪なものに見えた。
しかも右へとカーブしながら流れている。

99年 那珂川の上流域はこのように広い河原を持つところが多い。
しかしどんなに嫌でも川下りに瀬は避けて通れないのだ。
ぼくは野田氏の本に書いてあった「声を出せ。何でもいい。大声で怒鳴って漕ぐんだ」というのを実行することにして「わーーーーー!」と大声を上げながら瀬に突入した。
みるみるうちに外側の岩壁が近づいてくる。スピードは十分ついているので右にブレイス。
クルンと艇が回り反転流に入った。インに着きすぎたのだ。
カッコよく漕ぎ抜けることはできなかったが、これで瀬の流れというのがわかり、大きな自信がついた。



河原でのキャンプは川下りの最大の魅力かもしれない。
この那珂川は、メモの記録によると14回も通っていた。
大体が日帰りだが、キャンプツーリングも数回ある。
この初漕ぎの数週間後、ぼくは初めて沈を経験した。
キャンプのため距離をとろうと、さらに上流から漕ぎだしたのだが、少し自信過剰だったようで、ぼくはわざわざ岩と岩の間を漕ぎ抜けようとしてしまったのだ。
艇は岩に張り付きあえなく沈。2月の水は冷たいというより痺れるようだった。
自信が木っ端みじんに吹っ飛んだ。
(こんな川下りなんかやって、それでいったいどうなるというんだ・・・)
少し低温にやられていたのかもしれない。スタートしてからわずか1キロの地点。ぼくは完全なマイナス思考になりながら車を取りに歩いた。

ぼくのもっとも気に入っているキャンプ地。99年当時は時間が合わずに休憩のみだったが、ソロの一泊でやるときはここに決めている。

右端に見えるのは杭に張り付いた二人艇の残骸である。
いちおう確かめたが、中に人はいなかった。

知らずに突っ込んでしまった波高1,5メートル以上ありそうな大きな瀬。
無事通過できたが、気付いていたならたぶんライニングダウンしていただろう・・・。

ゴールの茨城県桂村の頭首工。川幅すべてを占領しているわけではないので、生物は遡上できる。
この日の朝、東海村で臨界事故があった。ここからわずか10数キロ下流である。
沈したその日は車中泊となり、キャンプツーリングは失敗に終わった。
意気消沈しながらも、ヒーターですっかり温まり、次の日にはすっかり元気になり一日だけ漕ぐ事ができた。
那珂川でキャンプツーリングを実行できたのは、これから3年も後になってからである。
川下りを始めたばかりの頃、カメラは持って行っていたのだが写真はほとんど撮っていない。
余裕がないのである。那珂川の写真はここの画像、99年のものだけなのがやはりさびしい。
この川は最上流部にダムがあるものの、そこから下流には大規模な堰はなく、色々な生物が川を行き来でき、川漁も盛んな比較的健康な川である。
しかし99年も着々と護岸工事は続いていた。現在の那珂川は果たしてどうなっているのだろうか・・・?