前回の続き

ソファからずり落ちたままの妻を立たせ、入院受付を済ませ、産科での手術前診療を受ける。

妻がかかりつけの先生に会い、はじめましてと挨拶をする。
診察結果は前回と変わらず、心拍なし。
手術をおこなうことを決定。

看護師さんに案内されて病室へと移動。

山王病室と言えば個室が有名だが、妻は節約して4人部屋を予約してくれた。
もし出産前の人と一緒の病室だったらどうしようと心配していたが、そのようなことはなかった。

病室はこれまでの人生で4回くらいしかいったことがないため、他との違いがわからない。
祖母のお見舞い等で都立病院によくいく妻に聞くと、山王はウッディで高級感があるとのこと。

同じ部屋にはもう一人入院していたため、妻とはひそひそ声で会話する。
もちろんカーテンで完全に隠れるため、お互いの姿はわからない。

看護師の方は丁寧かつ低姿勢で精神が不安定な妻の身を安心して委ねられる。

前日の晩から飲食できないため、妻は点滴をうける。
ちなみに妻は注射と犬が嫌いだ。
妻は私にとって神をも恐れぬラオウみたいな存在だが、犬が弱点だ。犬
前から散歩の犬が接近してくるのを発見すると、予め進路を変える。

手術は13時過ぎとのことなので、妻は少し落ち着いたのか、寝てしまった。
私はベッドの隣で椅子に座ってブログを書く。
今朝の妻がソファからずり落ちている絵をその場で描いて見せたところ、けらけらと笑ってくれた。
よかった。ほっこり

丸椅子は疲れるので私も靴下を脱いでベッドに入り込む。
しかし、看護師の方がいろいろと検査や気を遣って度々来てくれるので、その都度ベッドから出なくては行けなかった。

そんなことをしているうちに1時半になった。
ストレッチャーが来て、旦那さんは外で待っているように言われる。
しばらくして再び病室に戻ると妻がストレッチャーの上に固定されていた。

妻は自宅ではいつもベッドでゴロゴロしていて自由の塊みたいな印象を受けるのだが(もし本人にそんなことを言おうものなら、「私は不幸でやることがないだけ」と激怒される)、ストレッチャーの上の妻はまったく違った。
あんなに元気できかん坊な妻が、こうして自由を奪われて悲しみに耐えて病人として横たわっている。

さっきまで会話できていた妻は、もう真上を見つめたままじっとしている。
私は妻の姿にショックを受け、気の利いたことも、励ますことも何も言えなかった。
何とか言葉を発したが、覚えていない。
だまってつまの横に付き添い、地下の手術室まで向かう。
妻はずっと真上を見たままだ。

手術室前で最後の見送りをする。
はっきり覚えてないが、「また後でね」くらいしか言えなかった気がする。

その後、先生が私のところに来てしばらく会話。
「お願いします」と伝えた後、先生は手術室に向かっていった。

つづく