地裁判決 (公務員の職場における喫煙訴訟) | ブログ

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平成26年10月23日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 

平成26年櫛第218号 判定取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年8月18日

                判        決

   東京都**************
原    告
   東京都新宿区西新宿二丁目8番1号
被    告  東 京 都
同  代 表 者 東 京 都 人 事 委 員 会
同委員会代表者委員長
同訴訟代理人弁護士
持 定 代 理 人

       

                主        文

    1 原告の請求を棄却する。

    2 訴訟費用は原告の負担とする。

                事 実 及 び 理 由

第1 請求
   東京都人事委員会が,平成25年(措)第11号事件につき平成26年4月
 17日付けでした判定を取り消す。

第2 事案の概要
 1 本件は,被告の職員である原告が,後記のとおり,平成26年2月13日付
  で東京都人事委員会(以下「都人委」という。)に対し,地方公務員法46条
  に定める措置の要求(以下,単に「措置要求」という。)をしたところ,都人
  委から同年4月17日付けでこれを却下する旨の判定を受けたことから,その
  判定に違法があるなどと主張して,その取消しを求めた事案である。
                1


  2 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
 めることのできる事実等)
(1)原告は,東京都******事務所に勤務する被告の職員である。
ほ)原告は,平成26年2月13日付けで,都人委に対し,平成15年3月2
  6日付け被告総務局長通知による懲戒処分の指針(平成20年5月28日最
 終改正のもの。以下「本件指針」という。)に,庁舎の指定された喫煙場所
 以外の場所で喫煙した職員は減給又は戒告の処分とする旨の文言を加えるこ
  とを要求する措置要求(以下「本件措置要求」という。)をした。

  その要求の理由は,「原告が勤務している庁舎内の禁煙場所で喫煙する者
 がおり,迷惑している。庁舎管理の責任者が,職員に向けて分煙の徹底を働
  きかけたが,効果がなかった。」というものであった。
(3)これに対し,都人委は,平成26年4月17日付けで,本件措置要求を却
 下する旨の判定(以下「本件判定」という。)をした(平成25年(措)第
 11号)。
  その理由は,要旨,「本件措置要求は,原告の勤務条件について,直接か
 つ具体的にその維持改善を求めるものではなく,地方公務員法46条に規定
 する勤務条件に関するものとは認められず,措置要求の対象とならない。し
 たがって,本件措置要求は不適法であるから,勤務条件についての措置の要
 求に関する規則5条1項2号の規定により却下すべきである。」というもの
  であった。
〈4)原告は,平成26年5月12日,本件訴訟を提起した。
(5)勤務条件についての措置の要求に関する規則(平成8年7月12日人事委
 員会規則第7号。平成14年人事委員会規則第9号による改正後のもの。)
 (要求の受理又は却下)
 第5条 人事委員会は,前条の規定による調査の結果により,その要求を受
    理し,又は却下するものとする。この場合において,次に掲げる要求
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     については,却下するものとする。
     一要求をすることができない者によってされた要求
     二 法第四十六条に規定する勤務条件に該当しないことが明らかな事
      項についてされた要求
     三 法第五十五条第三項に規定する地方公共団体の事務の管理及び運
      営に関する事項に該当することが明らかな事項についてされた要求
     四 要求の趣旨が既に実現されたか,又は客観的にみて実現が不可能
      であることが明らかな事項についてされた要求
     五 その他不適法にされた要求で補正をすることができないもの
    2 前項後段の規定による要求の却下は,判定によって行う。
    3以下 (略)

3 争点及び当事者の主張
 本件の主な争点は,本件判定の違法性の有無(本件措置要求が,措置要求の
 対象とならないことが明らかなものといえるか。)であり,これに関する当事
 者の主張は概ね以下のとおりである。
(1)原告の主張
 ア 本件指針には,喫煙場所以外の場所(以下「禁煙場所Jという。)で喫
  煙した職員に対する処分の基準について定めがない。本件措置要求は,そ
  の設定を求めるものである。措置要求の対象には懲戒処分の基準が含まれ
  るから,本件措置要求も措置要求の対象となるべき事項についてなされた
   ものいえる。
 イ 本件指針に,禁煙場所で喫煙した職員に対する処分の基準を設ける目的
  には,適正な範囲を超えた罰則を与えることを防止して,職員が過剰な不
  利益処分を受けることを防止する意味もある。よって,職員の権利を保護
  することを求める具体的な権利に関する要求であるともいえる。
 ウ 禁煙場所での喫煙について罰則を設けることは,威嚇による抑止効果に
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 より禁煙場所での喫煙をしないという規則を職員に遵守させる効果がある。
 そもそも,喫煙場所を定める目的は,安全衛生の観点から職員の受動喫煙
 を防止することにある。よって,禁煙場所で喫煙をした職員に懲戒処分を 
 することは安全衛生を確保することに関わることであり,本件措置要求は
 職員の勤務条件に関するものといえる。
エ 以上の点によれば,本件措置要求は措置要求の対象となるべき事項につ
 いてなされたものいえ,これに反し,都人委が本件措置要求を却下したこ
 とは違法というべきである。
オ 被告は,後記(2)アのとおり,措置要求の対象事項となり得るためには,
 当該職員に関する勤務条件について直接,具体的に維持,改善を求めるも
 のであることが必要であると主張するが,広く他の職員に係る勤務条件で
 あっても措置要求できると解すべきである。このように解することは,職
 員団体に措置要求権が認められていないことや,国家公務員の職員団体の
 場合,措置要求が認められていることとも整合的で,合理的である。
  また,被告主張のように,措置要求の内容が,措置要求をした職員の職
 員としての勤務条件に係る権利義務に即時的に影響することを必ずしも必
 要とするものでもないというべきである。
  仮に被告主張のように解するとしても,本件措置要求の内容は,本件指
 針に懲戒処分の規定を設定することを求めるものであって,同指針が原告
 に制度的に適用されるものであることにも照らすと,本件措置要求は,当
 該職員に関する勤務条件について直接,具体的に維持,改善を求めるもの
 であったといえる。
カ 被告は,後記(2)ウのとおり,本件措置要求の対象事項が職員団体との交
 渉事項になり得ない地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項(以
 下「管理運営事項」という。)であるとも主張する。しかし,既に本件指
 針自体は東京都総務局により設定されているものであることからすれば,
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   本件指針に具俸的懲戒処分の基準を追加して設定することは管理運営事項
  に当たらないというべきである。
 キ 本件判定の理由は不十分なものであったところ,被告は,本件口頭弁論
  期日に至って本件判定の具体的理由を示すに至っている。このこと自体,
  行政手続法に反して違法というべきである。

ほ)被告の主張
 ア 措置要求の対象事項となり得るためには,当該職員に関する勤務条件に
  ついて直接,具体的に維持,改善を求めるものであることが必要である。
 イ しかるところ,本件措置要求は,以下のとおり,原告に関する勤務条件
  について,直接,具体的に維持,改善を求めるものではない。
  本件措置要求は,禁煙場所で喫煙した職員に対する懲戒基準の設定を
   求めるものであるところ,その理由ほ,禁煙場所で喫煙する者がいるこ
   とで原告が迷惑しているというものであるから,原告以外の禁煙場所で
   喫煙する職員に係る勤務条件としての懲戒基準の設定を求めるものであ
   る。したがって,原告自身に係る勤務条件としての懲戒基準の設定を求
   めるものとはいえない。
    また,禁煙場所で喫煙した職員に対する懲戒基準の設定を求めるとい
   うことは,実質的には,他の職員に対する懲戒権の発動を促すものであ
   り,これは,原告の勤務条件の維持,改善を求めるものとはいえない。

  (イ) 上記(ア)のように,本件措置要求の内容が原告自身の勤務条件に該当す
   るか否かを措くとしても,本件措置要求は,新たな懲戒基準の設定を求 
   めるものであり,職員の勤務条件の維持,改善に資するものかも疑問と
   いうべきである。
    この点,原告は,本件措置要求には,職員が過剰な不利益処分を受け
   ることを防止する意味もあると主張するが,被告において,これまでそ
   のような懲戒処分を科した事例ほなく,結局,その真意は,過剰な不利
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    益処分の防止などではなく,禁煙場所で喫煙した者に対する厳重処分に
  あると解さざるを得ない。
 (ウ) 本件措置要求は,禁煙場所での喫煙により迷惑を被っている原告が,
  自らの執務環境の整備改善を図ることを狙いとするとも考えられるが,
  そうであれば,保健衛生面における執務環境の整備を求めることで直接
  的,具体的に達成することができ,禁煙場所で喫煙した職員に対する懲
  戒基準の設定をし,これによる一般予防ないし抑止効が一定程度あると
  しても,それはその実現方法として間接的なものにとどまるというべき
  である。
ウ 職員団体との交渉事項になり得ない管理運営事項は,措置要求の対象と
 ならない。
  ところで,特定の行為にづいて,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲
 戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかは,具体的な任命権の行
 使として管理運営事項に該当するが,個別具体の案件ではなく,懲戒の基
 準に関しては,勤務条件に関わるところがあるから措置要求の対象となる。
 ただし,懲戒基準を設定するかどうかの判断は,公務秩序の維持・保全を
 掌る当局の責任に専ら属するものとして管理運営事項であるから,新たに
 懲戒基準を設定するよう求めることは措置要求の対象とはならない。
  そして,本件措置要求は,未だ設定されていない喫煙の懲戒基準につい
 てその設定を求める、ものにほかならないから,管理運営事項に該当すると
 いうべきであり,措置要求の対象とならない。
エ 以上のとおりであるから,本件措置要求を却下した本件判定に違法はな
   い。

第3 当裁判所の判断
1 地方公務員法は,職員が,給与,勤務時間その他の勤務条件に関し,措置要
  求をすることができる旨規定しているところ(46条),ここにいう勤務条件
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   とは,職員が地方公共団体に対して勤務を提供し,又はその提供を継続するか
 どうかの判断をするに当たって,一般的に当然考慮の対象となるべき利害関係 
 事項を指すものと解される。そして,措置要求制度が,職員の労働基本権を制
 限したことに対する代償として,給与及び勤務時間に代表される職員の経済上
 の権利を十分に確保することができるようにするために職員に認められたもの
 であることにも照らすと,措置要求の対象となる勤務条件に関する事項は,当
 該職員に関する勤務条件について,直接,具体的に維持,改善を求めるもので
 あることが必要であるというべきである。
2 そこで,これを本件についてみると,前記前提事実(2)記載の本件措置要求の
 趣旨及び理由からすれば,原告が,他の職員の禁煙場所での喫煙防止の観点か
 ら,罰則基準の策定を求めて本件措置要求に及んでいることは明らかというべ
 きである。この点,原告は,本件措置要求につき,他の職員が適正な範囲を超
 えた罰則を受けることを防止する意味もあったなどと主張するが,その趣旨及
 び理由からはそのようには理解し難い。してみると,本件措置要求は,実質的
 には,他の職員の勤務条件に関するものといえ,しかも,その内容(新たに懲
 戒処分の基準を設定するというもの)に照らせば,その維持,改善に係るもの
 ということもできない。
  もとより,本件指針に禁煙場所での喫煙に関する懲戒基準が設定されること
 になれば,これによる一般予防ないし抑止効により,禁煙場所での喫煙により
 迷惑を被っている原告自らの執務環境の整備改善につながる点もないとはいえ
 ないが,禁煙場所で喫煙した他の職員に対する懲戒基準の設定という方法では
 その実現方法として間接的なものにとどまるというべきである。

3 以上によれば,本件措置要求は,原告に関する勤務条件について,直接,具
 体的に維持,改善を求めるものであるものとほいえず,措置要求事項に当たら
 ないというべきである。したがって,これを却下した本件判定に違法があると
 は認められない。
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 なお,原告は,本件判定の理由は不十分であり,行政手続法に反する違法も
 あるとも主張するところ(その主張内容に照らすと,同法8条に反する違法が
 あると主張するものと解される。),前記前提事実(3)に照らせば,本件判定は
 判定主文を根拠づける理由を示しているといえるから,原告の主張はその前提
 からして採用することができない。

4 以上の次第で,原告の請求は理由がないから棄却すべきである。

  よって,主文のとおり判決する。

   東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官    古 久 保 正 人
裁判官         大  野  博  隆
裁判官         芝  本  昌  征

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