久しぶりに、長編小説を読んでいる。
昔は、よく長編小説を読んでいたが、
最近ほとんど読んでいなかった。
本にのめりこむ性質であり、
一度読み始めると止められなくなるので、
無意識に自重していた。
私にとっての、良い本とは
読むと世界が立ち上がる本である。
文章を追っていくと、
景色が瞼の裏に立ち上がり、
香りがし、声がし、
いつのまにか、その世界を漂っている。
ハッと気が付くと、
時計の針が何周も進んでいる。
こんな繊細な世界があるのだということに驚く。
バラの花の冴え冴えとした赤を「痛い」と表現したことがあっただろうか。
でも、分かる。
ここまで、繊細に世界を観察したことはないけれど、
でも、分かるという感覚がところどころある。
たまに休憩を入れながら、ゆっくりと読み進める。
本には、その本ごとに「時間」の流れがあるように感じる。
私は、その「時間」に沿って読んでいくのが結構好きである。
アクション映画のように緩急を感じながら、
あっという間に読み終わる本。
謎を解きながら、
秒針を刻む時計のように、規則正しく進んでいく本。
ひっそりとひそやかに、
その世界に身をゆだねる本。
何冊も早く早く読み進めるのもいいけれど、
もっと味わって読みたくなって、
ゆっくり読む本。
この本は、この類だと思う。
嗅覚が並外れていい人の世界を体感する。
出てくる人は、皆どことなく孤独だ。
でも、孤独なのが皆であるという所が、
リアルで、いとおしい。
雨の日の、静かな夜に一人で訪ねたくなるような世界である。
文章を追っていくと、
ハーブの香りが立ち込めるような気がする。
温かい料理の香りも。
人々の温度のある声も。
そして、透明な孤独。
美しい文章を書く人は、
顕微鏡をのぞくように
世界を緻密に観察しているのだと思う。
小川洋子さんの文章と似ていると
思ったら、最後に小川さんのコメントが載っていて、
それもまたなんだか嬉しい。
この本を読むときは、音楽は不要ね。
さてさて、続きを読まねば。
著:千早茜
「透明な夜の香り」