『武士道 BUSHIDO/The Soul of Japan』(評価★★★★★) | 遠近法で描く中国 -2nd Season-

遠近法で描く中国 -2nd Season-

片手にピストル 心に花束 唇に火の酒 背中に人生を。 

著者 新渡戸稲造
訳者 佐藤全弘
発行 教文館(単行本)

ジャンル:文芸/日本


原書は新渡戸本人が英語で書いた本で、これまで数度訳本が出ています。
佐藤訳は原書から発刊百年を記念して新たに、訳されたものです。


目次

まえがき
凡例
序文
諸言
第1章 倫理体系としての武士道
第2章 武士道の源流
第3章 廉直すなわち義
第4章 勇気、敢為忍耐の精神
第5章 仁、惻隠の心
第6章 礼
第7章 真実と誠実
第8章 名誉
第9章 忠義の義務
第10章 サムライの教育と訓練
第11章 克己
第12章 自殺と敵討ちの制度
第13章 刀、サムライの魂
第14章 徐聖の訓育ならびに地位
第15章 武士道の影響
第16章 武士道は今なお生きているか
第17章 武士道の未来
あとがき


この本を読んでいて、いつかこの形式に出会ったことがあると考えていました。
そして第6章まで読み進めた時に「チャノユ」「千利休」という言葉に出会い、その謎が解けたのです。
かつて大学時代、卒業論文を書く為に読んだ本で、
岡倉天心『茶の本 The book of Tea』(1906年)というものがありました。
「武士道」と同世代の本であり、英語にて書かれた日本"茶"文化を西洋に紹介するものでした。
その当時ぼくは、文庫本でそれを読み進めたのですが、やはり通常の日本語本と比べて、違和感を感じたことを覚えています。
ちなみに大学では経営学を専攻したのですが、最終的にゼミの論文で選んだのは、マクロ経済学そのものでした。
茶という植物あるいは、飲料としてのそのものは、インドもしくは中国が発祥と言われ、元々は薬として用いられたものです。
日本にも中国から伝来した時は、その役目としてやってきたものです。
そして室町時代には一般庶民も嗜好品として飲むようになります。
戦国時代を得て一つの文化として完成させたのが、千利休たちであると言われています。
中国にもイギリスにも習慣とされる喫茶の"作法"は存在しますが、精神世界まで引き入れて芸術の域まで発展させたのは、日本の茶文化のみとされています。


「武士道」が訳書であることを除外したとしても、聖書の知識と多少の世界史の知識がなければ、この本を理解するのは少し難解だろうと感じました。
訳者である佐藤氏は、あえて原文の新渡戸の主張を忠実に訳し、それを日本語らしくしすぎないことに、注意を払ったことは容易に想像できます。
そういった意味で、大変素晴らしい訳であり、書物としても日本の文化を単に紹介するのみではなく、しっかりとした比較文化論にもなっています。

しかし、日本での世界史教育というのは、なぜか軽く見られています。
ぼく自身の体験で、これは大阪の公立高校での事実です。
世界史は高校3年次から開始され、4時間が必修とされていました。
しかしそれでは、近現代史を学ぶ時間がないということが知らされました。
日本の今を作った明治以降の世界の流れ、近代化、二つの大戦、そして復興の歴史が、
大阪の公立高校で正規の学習を行わないということが、20年前の日本の教育の実態だったのです。
ぼくは幸い、社会科の受験選択を世界史に決めていたので、さらに2時間をかけて学習しました。
ということは、日本史選択の他の8割の本校の3年生は、世界の近現代史を学ばずに、無事卒業をしました。
4月から始まる3年の新学年では、同じ教師が、ある時間帯では古代史を教え、
選択学習の時間では、同じ教科書の近代史を教えるという異常な授業を体験しました。
現在の世界史教育がどういうものか、詳しく知ることはできませんが、
近年、高等学校での授業洩れのニュースを中国で知り、日本の歴史教育の杜撰さに驚嘆する想いです。
ぼくは今『武士道』を読んで、世界史の授業でこれを学べば良いのに、と本気で感じています。


ぼくがこの本を読み始める時、奥さんがその表紙の文字を目にしました。
彼女にぼくは、どんな意味か知っているかを尋ねました。
それに対し彼女は「ケンカ(戦争の意味)でしょ?」と応えました。
中国の農村の中学卒の田舎娘でも、武士という言葉を知っていることは意外でした。
しかしそれ以上に、武士というものが戦闘する職業もしくは、日本との戦争の際、日本人を表す意味で彼女たちが習ってきたことも、わかりました。
この本は武士「道」であって、哲学書だよと彼女に教えると、「そうなの。」という顔をしていました。
実際訳者の佐藤氏の専門は哲学ということなので、全く異なることにはならないでしょう。
日中それぞれの歴史教育において、日本では"自虐史観"で行われ、
中国ではいまだに"反日"が教育の柱とされていることは、事実として書き添えておく必要があります。


最後に印象に残った箇所を「第10章 サムライの教育と訓練」から引用します。(151ページ)


--引用ここから--
すべての種類の仕事にお金を払う今の制度は、<武士道>の支持者のあいだでは行われていなかった。
(中略)
僧の仕事であれ、教師の仕事であれ、精神的な働きは、金銀でお返ししてはいけなかった。
それは仕事が無価値だからではなく、はかりしれぬ価値があるからだった。
--引用ここまで--


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