月面風景

月面風景

月に5冊×12ヶ月=60冊を目指しての読書記録。

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いまさら入門 太宰治 (講談社+α文庫)/木村 綾子

作者が1980年生まれの、同じ20代の女性ということに喜びと共感を覚えた。

太宰、ひいては“太宰好きな人”の偏ったイメージをよくぞ払拭してくれた!!

入門ということで初心者にも、愛読者にもおすすめの読みやすい一冊。


私も、中高時代に読んだ『人間失格』や『斜陽』の文章力や世界観に衝撃は受けたけれど、

いまいち何が言いたいのかよく分からず、破滅的な感じが恐ろしくて

「太宰=酒好きで女好きで薬にハマって、自殺ばっかりくり返していた暗い人」

と思い込んでいた。そして、太宰作品にハマる人は病んでいる人だと。


だけど、大学時代に『駈込み訴え』や『お伽草子』、『女生徒』など中期の作品にハマり、

口述筆記による流れるような文体や、読者だけに打ち明けるような告白調に

うっかり魅了されてしまった。顔もアンニュイでかっこいいし(笑)

でも、私自身が日常的に自殺願望を持っているわけではない。もちろん。


重松清の短編に『桜桃忌の恋人』という作品があるのだけれど、

太宰に心酔している女子大生が自殺未遂をし、彼女を好きになってしまった男子が

最後メロスばりに止めに“走る”という…ややぶっとんだ話になっている。

重松さんが太宰好きなのかはよく知らないけれど、

「太宰が好きっていうと、こんな風に思われるのか」と。誇張だとしても凹んだ。


そんな風に誤解されがちな世の中であるから、太宰の新たな魅力を引き出してくれた

作者には拍手喝采を送りたい!!!ラストの『人間失格』についての章も、

ネットに依存してコミュニケーションの希薄化が叫ばれる世の中でこそ

「道化で必死のサーヴィスをするのではなく、ちゃんと人と向き合おう」という

メッセージを明確に打ち出していて素晴らしい。私も身の引き締まる思い。

映画はまだ観てないけど、そんな希望の持てるエンディングになっているといいなぁ。

夢はトリノをかけめぐる(光文社文庫)/東野 圭吾
親の影響か、スポーツを観るのは昔から自然な習慣です。
特にオリンピックやW杯なんかは、基本ミーハーなので絶対観る!
箱根駅伝とか、国民全員が観るものだと思い込んでたし。
その中でも1998年の長野五輪以来、冬季オリンピックは特別に好き。
父方の実家が長野なのでジャンプ台に行ったこともあるし、何より
連日のメダルラッシュに日本中が沸いたのは、今でも鮮やかに脳裏に蘇る。

「流星の絆」も記憶に新しい東野さんは、どんなオリンピック体験をしているのかと、

バンクーバー真っ最中にも関わらず本の中で4年前を振り返ってみた。


荒川静香の日本勢唯一の金メダルに盛り上がったフィギュアスケートに関しては、

意外にもあっさりとした感想。冬の華ですよ~~!もっと詳しく!

前半は、作家の飼い猫「夢吉」が人間になってマイナー競技に挑戦し、

カーリングやバイアスロンなど、なかなか知らない実態を紹介するというもの。

後半はトリノ現地取材の珍道中。タイトル通り旅に病んで…はいないけど、

なんか毎晩ワイン飲んでるし、イタリアのトイレ事情への文句がめっちゃ多いし(笑)

でも、フィギュア以外の競技の認知度の低さに歯がゆい思いをしている作者の、

冬季オリンピック全体に対する愛情を感じた。


今回のバンクーバーでも散々指摘されていることだけど、トリノの時から

韓国勢のスケート「だけ」にかける情熱は並大抵のものではない。

日本はライバル・韓国にメダルの数も大きく水をあけられた…なんて言っているけれど、

参加している競技の数や入賞者を考えれば、広く競技に親しんでいるのは日本だ。


結果がすべてのスポーツの世界であえて、お約束の「参加することに意義がある。」を

作者は最後に強調している。メダルの数がすべてではない。

日本には豊かな自然と四季があって、そのひとつの「冬」を楽しむスポーツとして

様々な競技が発展していった。そしてその先にオリンピックがあるのだと。

雪や風など、不安定な自然の状況下で行われる冬の競技は、夏にはないドラマがある。

猫の夢吉にかかった「冬の魔法」は、私たちにももちろん夢を見させてくれた。


あーーーー今からソチが楽しみ!!真央ちゃんのリベンジ!!!

終末のフール (集英社文庫)/伊坂 幸太郎
つい、電車の中で読むことが多いので、短編を選んでしまう。
伊坂幸太郎はそれぞれの話が連なっていくのも面白くて。

三年後に小惑星が衝突し、地球が滅亡する。パニックも一旦落ち着き

嵐の前の静けさで束の間の小康状態の中、仙台のマンションに住む

8人の生き方が、誰かが望遠鏡で覗いたように一人ずつクローズアップされていく。


「週末」の過ごし方、とでもいうようにさらりと「終末」の過ごし方が

描かれていて、どの人物も等身大で、こんな日が来るのもあり得るような気がしてくる。

自分ならどのような過ごし方をするのだろうか。


特に気に入ったのは次の四編。

「終末のフール」は、過去に兄が言った台詞に思わず噴き出した。天才。

「籠城のビール」は、加害者と被害者の織りなす悲喜劇。伊坂節が炸裂していて痛快。

「冬眠のガール」は、とぼけた味が尾をひく。私も3人に意見を聞いてみようかな。

「天体のヨール」は、天体オタクの二ノ宮がめっちゃ好き!子供みたいでかわいい!


全編?に顔を出すビデオ屋店長・渡部さんの、父が作っている櫓はまるで

谷川俊太郎の『未来』という詩のよう。

「青空に向かって僕は竹竿をたてた それは未来のようだった」…って感じで

すがすがしく前向きな気分になれる、爽やかな読後感の小説。

小惑星が近付いてきてると分かったなら、まずは天体望遠鏡を買おうと思った。

デッドエンドの思い出 (文春文庫)/よしもと ばなな

よしもとばななは、TUGUMIとかうたかたとか、読んだことはあったけど

あんまりハマる作家ではないなぁと思っていた。今回も途中までそんな感じ。

抽象的だし、幽霊とか神様とか運命とか、精神的なものを疑問も感じずに

ありのまま描いているのがなんか、私には無縁の世界で。

好きな人は好きなんだろうなーって、距離を置いてしまう類の話が多かった。

あと個人的に、台詞に「何かごちそうするよ。」って感じで最後に句点がついてるのが、

あんまり好きじゃない。いちいち会話の流れが止められてしまって、現実感がないから。


「特別」で「非日常的」、見方によっては「不幸」な出来事に遭遇した主人公たちが
人との交流を通して心を癒し、また自分の人生を歩み出していく、

題名の通り “袋小路=デッドエンド” に面した人々の短編集。


やっぱりいまいち入り込めない作品もあったけど、

作者が「これまで書いた自分の作品の中で、いちばん好きです。

これが書けたので、小説家になってよかったと思いました。」という

表題作“デッドエンドの思い出”は、私も何度も読み返してしまうほど好きに。


黄色いいちょう並木が雪のように降り積もっている景色は、

体験していないのに(というか架空の話なのに)思い出すだけで心を明るくしてくれる。

ものすごい確率でふとした瞬間に訪れる奇跡のような幸せって、口では説明できないけど

誰にでもあるものだと思う。それをきれいに切り取って箱に詰めてくれたようなお話。

思い出だけじゃ生きていけないけど、あるのとないのとじゃその後の生き方が違う。

私も人生の袋小路に入り込んだら、西山くんみたいな人と出会いたいなぁ。


朝電車の中で読んでいて、職場への道を歩きながらいつもの景色が違って見えた。

妙に視界がくっきりとしてる感じ。酸素カプセルに入った後、みたいな(笑)

そういう読書の「麻薬」みたいな効果を、久々に思い出した一冊でした。

ガール (講談社文庫)/奥田 英朗

なんでこんなに“働く女”の気持ちが分かるんだろう?

誰もが、奥田英朗は本当は女なんじゃないか、と訝しがるのも無理はない。

周りの社員の描写にも、思わず「いるいるこういう人!」と膝を打ってしまうくらい

細かいところにリアリティーがあって、唸ってしまった。観察眼がすごい。


女性の社会進出が増えたとはいっても、やっぱり生きにくい男社会。

ホモソーシャルで、封建的な制度の中で、女は肩肘張って生きているのかも。

完全な男女平等なんてありえないし、不自然なことなんだとも思う。


この作品の主人公たちは30代、いわゆる妙齢の働く女性たち。

私はまだ20代で、もう新人気分ではないけれど、まだ甘やかされてもいる。

でもいつか必ず30代になるわけで、いつまでも“ガール”じゃいられないのは

うすうす分かっていた。職場の中のポジションが世代交代していくのだと。

この先どんな人生を歩むか分からないけど、未来の自分を本の中に見た。


でも、やっぱり生まれ変わっても女子に生まれたい!

って思うのは、そんな私の分身たちが、辛いことがあっても毎日を楽しんでいるから。

自分で自分を好きでいられるように頑張っている。


 「結局、自分から年齢に縛られて、もう遅いとか、少し様子を見ようとかして

 何もしない、これがいちばん馬鹿らしいと思う」

 「今、自分のファーストプライオリティがはっきりとわかった。

 自分を偽らないことだ。これに優先するものは何もない。」


十年後の自分から手紙をもらって励まされたような、女友達と二杯ぐらいのお酒で

仕事の愚痴を言い合って、スッキリして家に帰ってきたような読後感。

うちの職場は女性が少ないので、会話に意味やオチを求めるんじゃなくって

「わかるわかるー!」ってただ共感する、そんな女子の会話が恋しくなった。