ご隠居様はお優しい方だった

 

仕事には厳しく

 

若い頃にはよく𠮟られた

 

という職員もいたが

 

少なくとも長い間 お仕えしてきて

 

ただの一度も叱るどころか

 

厳しい顔や言葉を向けられたことはなかった

 

 

 

その代わり 正しいと思ったことは

 

みんなの代表として上に意見し

 

処分を受けられたこともあるが

 

それでも今日 この職場があるのは

 

開設されたご隠居様のご尽力に他ならない

 

 

ご隠居様がなくなられた時

 

母が亡くなってまもなくだったので

 

残念ながら最後のお別れを

 

することもかなわず

 

 

ずいぶん経ってから

 

ご隠居様のたくさん撮った写真を

 

アルバムにしてご自宅へお届けした

 

奥様は職場でのご隠居様を

 

知ることがなかったので

 

穏やかな表情のお写真に

 

知らないご隠居様を見ていたようだ

 

今も私の後ろには その写真が飾ってある

 

 

ご隠居様はビールがお好きで

 

宴会の時もずーーっとビールだった

 

健康診断でも大きな異常もなく

 

100歳まで生きるんだとおっしゃっていた

 

 

ある時 ガンが見つかり

 

そこから坂を転がるように体調は悪くなり

 

職場を退かれることになったが

 

もうそのことを理解することもできないでいた

 

 

 

もう若い職員たちは

 

ご隠居様のことを知らない

 

古い職員でもご隠居様が亡くなられた日を

 

覚えている人はほとんどいない

 

 

 

 

 

 

 

今日はご隠居様の三回忌

 

 

合掌