七十二歳のおひな様
数年前に母がなくなり、空き家になっていた実家を壊し
昨年、甥っ子が家を建てた。
お宝など何もない! はずだったけれど、
押入れの奥から見つかったのは、60年も箱にしまいっぱなしだった
姉(と私の)のひな人形だ。
七十二年前、姉が誕生したときに、母の実家からとどいたものだが、
最後に飾ったのは、私が小学校低学年のころ。
どこにしまってあるのかさえ、知らなかった。
「うわぁ、見つかったよ。おひな様の箱!」
うす暗い押入れの奥からおひな様の箱を引っ張り出し、
姉の家に運び、そっとふたを開けた。
和紙と古い新聞にくるまれた小さな人形たちは、
止まっていた時がまた動き出したのを知っているかのように
包まれた紙をあけたとたん、りりしい顔つきで
わたしたちの前にあらわれた。
「わぁ……、ほんとに七十二歳のおひな様?」
とても小さいけれど、それぞれの人形の顔の表情やしぐさが
どれも少しずつちがっている。
「三人官女に、五人ばやし…の笛やたいこ」
赤いもうせんの上に
ならんだ五段飾りの人形たち。
人形のとなりに並んで写真を撮ってびっくり。
おひなたちは、全く年をとっていないのに…
おひな遊びをした姉と私にこどものころの面影はなく、
確かにあれから60年以上もすぎたのだと…
現実に引き戻されたひな祭りの一日だった。




















