精霊を統べる者 | 翡翠のブログ

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読書記録 P・ジェリ・クラーク 精霊を統べる者

 

2022年ネビュラ賞 長編小説部門、2022年ローカス賞 第一長編部門受賞作。SF読書会に参加するため読みました。実は、もっと前に、XでフォローしているSF関係の人たちのポストで、2024年に邦訳が出版されて、今年の一番というつぶやきが流れてきて、早速買っていたのですが、そのまま、うっかり積んでいたものです。

 

19世紀後半、魔術師アル=ジャーヒズがジン(精霊)の世界の扉を開き、魔法とジン(精霊)が科学文明に共存することになった世界が舞台。その結果、エジプトが強国の一つとなっています。アル=ジャーヒズが突然姿を消した40年後、アル=ジャーヒズを名乗る仮面の男が現れ、彼を辛抱するカルト組織のメンバーをイフリートの炎で焼き殺害します。この事件を、魔術省の女性エージェント・ファトマ、彼女のパートナーのシティ、魔法省の新人に配属されバディを組むことになったハディアが調べることになります。

 

魔法や精霊が登場する点からは「SF」というより「ファンタジー」か。(この2つの関係は、イマイチ、確定できないのですが。(ファンタジーはSFに内包される?その反対?超能力がSFで魔法がファンタジー?理屈が(嘘でもなんでも)語られるのがSFで語られないのがファンタジー?)など、も考えつつ読みましたが、分類関係なく、先を読み進めたい、面白さでもありました。読んだ感想は「何より、楽しい、面白い」です。

 

主要登場人物の3人が女性で、ファトマとシティが恋人であること、物語りの中で彼女らが活躍する地、カイロの政治文化背景は、やっと女性が選挙権を得たものの、仕事の場面などでは女性には制約が強く、魔法省でも珍しい存在であることなどから、フェミニズムやクイアをテーマとしている部分も無くは無いように思います。また、シティのようにセクメトを信じている人々が、偶像崇拝者と呼ばれたり、肌の色や民族、出身、信仰などから、差別されたり奴隷と呼ばれる場面があったり。そういった様々な差別意識をもテーマの一つにしている部分もあるかもしれません。

 

元々、私はタフな(精神力も武力的にも)女性を描いた話は好きで、V.I.ウォーショースキーのシリーズとか大好きです。

 

また、最近では、テロや感染症のために直接会ったり集まることが制限されている世界でのライヴを描いた「新しい時代への歌」なども、まるでコロナを予期したようでもあり、女性が主人公でした。

 

この「精霊を統べる者」も抑圧される側としての女性の意識が描かれていたこともあって、著者は女性なのか?と思って読んでいたのですが、実際はアメリカの男性らしい。ただ読書会で、冬木糸一さんがおっしゃるには、歴史や差別を研究テーマとしている社会学者でもあるそうなので、性や人種、国や文化による差別について取り上げられているのかもしれないということでした。

 

そういった社会問題、課題意識ばかりを前面に押し出しているわけではなく、最初にも書いたように、とても面白い。まず、上掲の主人公ら3人のキャラクター造形がとても良くて、生き生きと頭の中で動いて活躍してくれる。セリフも行動もカッコ良いし。ファトマのスーツが華やかで、色々着るスーツの色やデザインが詳しく書かれているところも面白い。頭の中で想像しながら読むのが楽しかった。この3人の活躍を、もっともっと読みたい、続編をシリーズ化してほしいです。

 

また、人以外のモノのキャラクターも良い。「精霊(ジン)」は、しっかり考えて罠に落ちないよう契約しなければならないとか、そういった恐ろしい魔人としてのジンも描かれる一方で、趣味や好きなことがあったり、人と共存して暮らすのが好きなジンもいたり、その外見の描写も、それぞれの個性もまた、とっても面白くワクワクしました。アニメ化してくれるのが良いだろうか、実写化してくれるのが良いだろうか。

 

もう一つの謎の存在(生命体と言えるのだろうか)の「天使」が、ロボットのようなメカニクスでできて、中に零体の存在抱をえている、そして呼び名にリンクした個性を持っているというのも面白い。物語の中で、一層うさん臭さ、影でコソコソ暗躍している感もあって、天使を中心に置いた(敵?)物語も、これも、すごく読みたいです。

 

それと魔法省の描写もまた良い。魔法省の図書館、膨大な本が並んでいて、別の世界に属する本すらあって、想像するとワクワクします。作中に登場した本屋が様々入るビルと合わせて、本好きにはたまらない場面が映画とかに登場しそうです。

 

著者の名前をフォローして、今後の作品を待ちたい、そんな物語に、著者に出会えて、今後も書かれるのが待ち遠しいです。