よしながふみ『環と周』 | 翡翠のブログ

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よしながふみの漫画では、「大奥」「西洋骨董洋菓子店」「きのう何食べた?」が好きで読んでいます。

今回、「環と周」という漫画を読み、読書会に参加しました。

 

様々な“好きのかたち”を描くオムニバスの短編連作です。

登場する主要キャラは、「環(たまき)」と「周(あまね)」という名前ですが、各話は時代が異なり、また登場する二人は、男性と女性だったり、男性同士だったり、女性同士だったり。そして愛し合う者同士だったり、夫婦だったり、仇だったり、友達だったり、上司と部下だったり、様々です。

 

Amazonのあらすじ紹介では、こんな風に紹介されていました。

1.現代編 中学生の一人娘が同級生の女の子とキスをしているのを目撃して動揺する妻 環。実は夫 周も、かつて同級生の男の子を好きになったことがあった。
2.明治時代編 大切な“お友達”になった女学生の環と周。周の縁談が決まり二人は離れ離れに……。
3.70年代編 病気で余命わずかと知った環は、同じアパートに住む少年 周と出会い交流が始まる。
4.戦後編 復員兵の周は元上官の環と再会し、闇市で一緒に店を始めるが、環には秘密があった。
5.江戸時代編 周の夫を斬った相手は、幼馴染みの環だった。仇討ちのため再会したことから、二人の運命が変わり始める。

 

読み進めていると、なんとなく環と周の二人が輪廻転生している物語に思えます。特に第5話、最終話を読むと一層。しかし、では絶対そうかと言われると、そうとまでは断言できない気もします。

 

輪廻転生ものの物語では、過去の転生前の記憶を持っていることがポイントかと思います。たとえば、私の好きな漫画、日渡早紀「僕の地球を守って」では、その記憶があることで、自分の気持ち、恋心が自分自身のものか前世の記憶によるものか、悩んだり苦しむことになる、そこも重要なポイントと思うのです。

 

他にも、多くあるラノベ、なろう小説は、前世の記憶が主人公チートの一つのように思います。しかし、この環と周は全く前世の記憶は持たない、性別も異なり、性格も異なる。性格の形成は経験や環境が大きいと思うので、記憶があれば同じような性格に育つかもしれないけれど、記憶がないため、生まれてからの経験で全く異なる性格になっている。メタな視線、神の視線で読んでいる読者ですら、名前以外には共通項を読めない。もちろん、ほんの少しの香りとして、「なんだかなつかしい」とか「なんとなく惹かれる」とかを感じ取るように思えることはある、作中では、この二人が偶然何度か会い、「また会ったね」というセリフが、転生して「また会った」と、読者に思わせる仕掛けはありますが、しかし、もしかしたら、そう思わせて、本当は転生していない別の偶然同じ名前の二人の話であっても、ありな気がして、そこがまた面白いと感じました。

 

一方で、この話を輪廻転生ものとして読むと、運命の二人、いつか出会う約束の二人というロマンチックな物語として読めます。それもまた、すごくキュンとくる良い物語なのですが、少しだけ、なんだか呪縛というか、斜めな読み方だと「呪い」のようにも、感じる部分もあると読んだ時に感じました。

 

ただ、読書会に参加して、自分の感想を言ったり、他の方の感想を聞いたりしている中で、5話での悲痛で壮絶な、哀れな慟哭の、必ずまた会う、きっと見つけるという叫びは、2話、3話、4話でのめぐり逢いを通じて、少しずつ昇華され、それぞれの人生の中で、苦しいことも悲しいことも、また早く亡くなることもあっても、喜びや幸せもあって、少しずつ浄化されて、1話とエピローグの静かな二人の在り方になったのかも、とも思えてもきました。

 

それぞれ、単話として読んでも、とても面白かったです。