SF読書会 地球の長い午後 | 翡翠のブログ

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今日はSF読書会へ。

 

SFは好き・・・ではあるのですが、昔に比べあまり最近は読んでいませんでした。でも昨年「あなたの人生の物語」を読んで面白いなあ、やっぱりと思ったのを皮切りに、まだまだ少しずつですがSFも読んでいます。

テッド・チャン「あなたの人生の物語」、ケン・リュウ「神の動物園」、伊藤計劃「虐殺機関」「ハーモニー」などを読んで、映画も「メッセージ」「火星の人」「インターステラー」「ブレードランナー2049」「虐殺機関」と久しぶりに色々観ました。

 

今日参加したSF読書会の課題本は、

ブライアン・オールディス「地球の長い午後」ハヤカワ文庫

地球と月が自転しなくなり、永遠の昼と夜が固定された世界。昼の半球では強烈な太陽の光が降り注ぎ、ほとんどの動物が絶滅した一方植物が繁殖し進化しています。その世界で人は衰退し知恵と文化も多くを失い、樹の上で細々と生き延びています。

 

世界感、登場する植物の描写がものすごい。鳥の様な植物、タコの様な植物、二本足で歩く植物、人と繋がり人を操り奉仕させる植物。蜘蛛の様な植物は糸を地球と月の間にはり地球と月を行ったり来たりするという。最初、「え?月?私が何か読み間違えている?」とページを戻って読み戻す驚きの描写でした。

この描写に乗れるかどうかで評価も変わるのかも。読書会の私のテーブル参加者は、面白かった派と良くなかった派が二分されました。「視覚のイマジネーション化ができるかどうか」と。実は私も初めの辺りは想像が追い付かなくて、ちょっとペースが悪かったです。ですが途中で、主人公がグレンに固定し、人に寄生するアミガサダケが登場してストーリーが動き始めてからは面白い!となって、どんどん読み進めました。特に人類の進化とアミガサダケの関係の辺りはSFっぽくて面白く感じました。

 

一方で、主人公グレンには共感できませんでした。こういう主人公って、初めはダメな点が色々あっても、ストーリーを通じて、また出会いを通じて成長したり変わったりする部分があると思うのですが、それがない。アミガサダケと共生して知恵や論理は手に入って変わっても、その結果が成長に結びついていかず嫌なところは嫌なやつのまま。

さらにアミガサダケ。主人公より賢かったり知恵、知識、超常能力を持っていて導く存在ってSFやファンタジーによくあると思ったのですが、主人公と理解し合ったり成長したり変わったりというところはない。最後まで主人公のパートナーとはならず、自身の本能からも離れることがない。

というか、そもそも登場するキャラクターたちの、誰もが共感できない、感情移入できない感じ。少しできそうになると死んだり、登場しなくなったりだし。

そして何よりも結末が、意外というか唐突というか、物足らない。折角面白くなって読み進めてきたのに、急に最後の方でソーダル・イーが登場した辺りで、?とまた理解がついて行けなくなり。それでもリリヨーの再登場とアミガサの語る世界の真理に、おお、いよいよ大転回の結末へ進むのかと思ったところで、え、そう終わるの?という結末に、ジャンプの打ち切りっぽいものすら連想しました。

 

この辺り、???と思いつつの読書会参加だったのですが、参加者の翻訳家の中村融さんの説明でなるほど!でした。SFには、人物主体で描くものでなく、今回の話のように風景画のような、世界観で描くタイプのものもあって、そこでは人物は単なるパーツなのだと。これに非常に納得しました。植物たちの描写こそが楽しむべき、オールディスの描きたかったものなのねと。

また、オールディスは、わざと従来のSF的な期待を裏切る作りにしていて、ヒーローは出さず、感情移入できないキャラで共感できなくしているのだそうです。そして、この「地球の長い午後」が発端となって、その後この世界感でさらに越えよう、描き切ろうとした作品が、別の作家たちに多く描かれたそう。1961年に書かれた作品だと思うと、確かにすごい想像力。

さらに、ファシリをしてくださった方の「アミガサたちの行く末は先行き不明、実際グレンの言う通りひからびて終わるかも、地球で生きるグレンらの選択の方が充実しているかも」という意見に確かにと。でもそこで、それでも主人公たるもの、銀河に踏み出してほしい、読み人の希望としては。

 

配布された参考資料の中村融さんの記事も非常に読みごたえがありました。オールディスのビルマ(ミャンマー)での従軍時のジャングルの体験が作品の土台となっていること、従来SFで描かれてきた「年老いて死にかけた地球」の設定に対して、生命にあふれた植物あふれる地球を描き、それでいてその地球の姿は「遠からず死を迎える老いた世界」「退廃の匂い」がする斜陽の姿であること、「アメリカSFの形式を踏襲したうえで、その欠点を批判する」小説をオールディスが書こうとしたことなど紹介くださっていて、知ることで一層読んだことが面白くなったように思います。

 

読書会の後には懇親会へ。少し薄暗い穴倉のような店内で、美味しいメニューをいただきながら、課題本やSF以外の話題も色々伺えて楽しかったです。でも、課題本の結末辺りについて、もう少し話したかった気持ちもあります。その辺りはもしかしたら二次会などに行ったら話せたのかな。また次回の読書会も機会があったら参加したいと思っています。