月に跳ねる! 8 | 背徳的✳︎感情論。

























「うゎあぁ!」

白いモヤに入った途端に落下の感覚が全身を襲う。隣で文吾も同じように声を上げている。
けれど数秒後には、ボニョンと身体はバウンドした。
「どわっ」
内臓が揺れる。
俺たちはまるでトランポリンに落ちたみたいに数回バウンドして転がり、白い地面はようやく静かに平らになった。
「なんなんだよ…これは…」
文吾が上半身を起こしながら言い、言い終わらない内に上を向いて息を飲んだ。つられて俺も視線を上に向けると、そこには立ち籠めていたモヤが晴れ満天の星空が広がっていた。その端っこに三日月が引っかかっている。
それに目を取られている間に地面のそこここが上下に伸縮を始め、俺と文吾は「うぉっ」と再び声を上げた。
白い地面から伸縮した突起が徐々に意味のある形を作って行く。
それは三段のジャングルジムになり、その奥ではブランコになり、丸いランプのついた外灯と光る時計灯。そして俺たちのすぐ目の前にゾウの形をした大きな滑り台。
白く柔らかかった地面は土の感触と色になり、出来上がった遊具も下からどんどん色をつけていった。

「こ、ここって…」
瞬きも忘れて見つめていた文吾が呟き俺を見た。
「あ…ああ」
俺は言葉にならない。

…こんな形で再現されるなんて…

それはあの日見た光景そのままだった。
赤と黄色のジャングルジム。
サビの浮いた緑色のブランコ。
ひときわ大きな、水色のゾウの滑り台。
黄ばんで怪しく光る時計灯の文字盤。
さくらんぼの形の外灯。
満点の星空にブローチみたいに引っかかってる三日月。
美しく尾を引く、幾つもの流れ星。


「これって…」
「…だな」
今は前を通り過ぎるだけになってしまった公園。懐かしさに鼻の奥がツンとなる。
「なんで… さっきまで、」
文吾がまだ混乱した様子でぐるりと見回す。
「これ、夢なんだよ」
俺は笑って、
「あの頃みたいに文吾と話したくて、でもなんか、最近忙しいとか言ってオマエ俺のこと避けてたろ? なら、夢の中なら文句ないだろうと思ってさ」
おどけた顔で説明した。
「夢でって… 俺たち夢で会ってるって事?そんなことが、どうやって」
「俺も半信半疑だったんだけど… てか、これも俺だけが見てる夢かも知んない… 目が覚めたら覚えてないとか…ありそう」
「ひとりでブツブツ言ってねぇで、ちゃんと説明しろやッ」
文吾が苛立った声を上げ、俺の肩にゴスッと拳を当てた。
「痛っ」
いや痛くない。
夢だから。
夢なんだ。

「だから、えっと、文吾がまともに会ってくんないからさ、なんかゆっくり話す方法ないかなって」
「ぶ、部活で忙しくしてんのは、そっちも同じだろ」
「そうなんだよ、俺ら高校になってから全然喋ってねぇじゃん。そしたらさ、小兎が、妹の持ってた雑誌に夢で会えるっておまじないがのってて」
「それを実行したのか… って、オマエが枕の下に置いて寝ろって言ったアレか」
「うん」
「下手クソなヨットが描いてあるから俺、呪われんのかと思った」
「あんな略図に上手いも下手クソもあるかよ!」
思わずムキになってツッコむと文吾は大の字に寝転がってケタケタ笑った。
そんな笑う姿を見るのも久しぶりで、俺も一緒になって笑った。

「昔っからレオは絵がダメだもんなぁ」
言いながら文吾が「ふふっ」と思い出し笑いをする。
「そこまで言われるほどか?」
鼻にシワを寄せて言い、俺も文吾の隣に仰向けになった。
「アレ、覚えてる?」
そんな俺に、文吾が笑いを堪えながら尋ねてくる。
「アレって?」
「3年だっけ、4年だっけ、図工の時間にさ、友達の顔を描きましょうってヤツがあって。オマエ、俺の顔描いたろ?」
そこまで聞いて俺は耳が熱くなった。
あの時俺は文吾とペアを組んで、お互いの顔を描いたんだ。
もちろん覚えている。
鮮明に。

「オマエさ、俺の頭に冠かいて、周りに星をいっぱい散りばめてさ」
文吾が限界とばかりに吹き出して笑い転げた。
「うるっさいな! ガキの頃の話だろ!」
俺は恥ずかしくなって起き上がり、膝を抱えた。


俺が描いた文吾を見た先生が、
「玲央くーん? 先生、見た通りに描きましょうって言ったでしょう?」
苦笑いを堪えているのか、口元をヒクつかせて俺に言った。
「ハイ。見えた通りに描きました!」
ガキの俺はキッパリと言い切った。
俺の言葉に先生は瞬きし、
「じゃあ玲央くんには、王冠やキラキラが見えているって言うの?」
その一つ一つを指差してから俺に顔を近づけた。
俺がふざけていると思っているんだ。
けれども俺は、
「ハイ!」
と大真面目に返事をした。
「…文吾くんは、王様か何かなのかなぁ?違うよねぇ?」
「文吾は王様じゃなくて王子様だよ」
さらに大真面目に答えた時、教室中からドッと笑いが巻き起こった。


「あン時、俺まで笑われてさぁ」
文吾が目尻に浮かんだ涙を拭って言った。
「文吾は笑ったヤツを片っ端からボコしてたろ」
「いやそれオマエのせいだろ」
「なんでだよ」
「オマエが変な絵を描いたからだろがい」
「それはしょうがないだろ」
「しょうがなくないだろ」
怒っている風もなく文吾は笑った。


しょうがないんだよ。
だって前の日に、妹のために読んだ絵本に出てきた王子が文吾にすごく似てたんだ。
颯爽とお姫様を助けている挿絵が、転んだ俺を助け起こしてくれた文吾と重なったんだ。
いつだって強気で弱音を吐かない文吾と。
カッコ良くてキラキラしていた。


あのあと俺も随分からかわれたけれど、4年生の後半から始めたバスケのお陰かグングン背が伸びて、学年の誰よりもデカくなった俺をからかってくる奴はいなくなった。

いつの間にか、文吾の方が俺より小さくなっていた。



















つづく





月魚







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