「文吾!」
翌日の昼休み、俺は文吾のクラスまで出向いて彼を呼び出した。
「今飯食ってるのに」
文吾はため息をついてブツブツ言いながらやって来た。ここ数日追いかけ回していたから諦めたような表情だ。
「すぐ済むって。コレを渡したいだけだから」
言いながら俺が白い封筒を差し出すと、
「なに…これ」
文吾はそれを受け取り、表を見て裏を見て、首を傾げて尋ね、封を開けようとした。俺はそれを軽く制し、
「ここでは開けずに、家で… 見てもなんのことか分かんないだろうけど、とにかく、何も言わずにコレを枕の下に置いて今日は寝てくれ」
早口に巻くしたてて顔の前で手を合わせた。
おまじない云々を省いたのは他の奴に聞かれたら恥ずかしいし、説明したら尚更文吾が拒否するのは目に見えていたからだ。
「は?」
眉間に皺を寄せ、文吾は下から訝しげに俺を見る。
「頼む」
「ちょっと意味が…」
「そこをなんとか」
「枕の下に?」
「そうそれだけ。別に加害を与えるモノとかじゃないから!」
「そりゃそうだろうけど」
「それだけしてくれたら、もう学校で話しかけたりしないから」
「え、なん…」
俺の言葉に文吾が困惑の表情を浮かべた。
「とにかく、今日の夜、枕の下に置いてみて」
頼む、と俺はもう一度顔の前で手を合わせた。
「…そこまで言うなら置くけど…置いて寝たら、どうなんの? なんか起きんの?」
「起きるかも知んないし、…起きないかも知んない」
「なんだよそれ」
「まあ…安眠法だと思って、やってみて。今夜、絶対」
そう伝えても文吾の顔は納得はしていないと言いたげに曇ったままだけれど、
「じゃあ、昼飯の邪魔して悪かったな」
俺は笑って見せて、話を切り上げた。
妹、小兎の雑誌に載っていたおまじないはこうだ。
まず白い紙を1枚用意する。
それを半分に切り分け、それぞれに緑色のペンでヨットの絵を描く。
ヨットは略図で良くて、三角形二つとその下に半月を足す。
そしてその三角形の帆の一つに自分の名前、もう一つに一緒に夢を見たい相手の名前を書く。
もう1枚のヨットの絵には1枚目とは違う帆に自分の名前、相手の名前を書き込む。
完成したこの絵の1枚を相手に渡し枕の下に置いて寝てもらい、残った1枚は自分が枕の下に置いて眠る。
おまじないはこれだけだけれど、相手に渡して枕の下に置いてもらわないといけないから、それなりに信頼関係がある2人でないと成立しない。
完全な片想いとかだったらだいぶハードルが高いだろうと思う。
紙とペンは小兎が用意してくれたから、俺はそれを使ってヨットの絵を描いた。
「真剣に、心を込めて描かないと、おまじないは効かないって書いてあるよ」
雑誌を見ながら小兎が言い、
「下手クソ過ぎない?」
俺を絵を指差してため息をついた。
「三角形二つ描くのに上手いも下手もあるかよ」
俺が反論すると、
「あるよ、線に気持ちがこもってない」
彼女は最もらしい顔をして「やり直し」を俺に言い渡した。
俺は奥歯を噛み締めてから深呼吸して心を落ち着かせ、精神統一すると頭に文吾の顔が浮かんで来た。
「あと、どんなシチュエーションで会いたいかも考えながら、だって」
小兎の声に、ふっと夜の公園が頭に浮かんだ。
空には三日月。月明かりに輝く滑り台。
それは酷く懐かしく、胸がぐっと詰まる感覚に襲われる。
あれは確か、文吾のお祖母さんが亡くなった年だったと思う。
夏休み、2人でペルセウス流星群を見ようって話になったんだ。
それで示し合わせて夜中に家を抜け出し、公園で落ち合った。
満天の星空の下、俺たちは滑り台の上で流れ星を数えて、たくさん願い事をしたんだ。
すっかり忘れていた遠い記憶が俺の心を震わせた。俺はその気持ちのまま、ヨットの絵を描き上げた。
もちろん俺だって、こんなおまじないが本当に効くなんて思っていない。
ただ、もう一度文吾と、気持ちを通わせたい。
そのために少し、信じてみたくなったんだ。
つづく
今週も読んで頂いて
ありがとうございます♪
お話に出てくるおまじないは
創作でごさまいます。
小学生の頃に読んだおまじないの本の記憶から
それっぽいのを思い出して
それっぽく付け足して書いております。
なので効果はないです
(°▽°)
あと
ヒロアカ最高だったなぁ