「これ…って」
テーブルに落ちた1枚のシートを指差す俺に、聡美さんはスマホを耳に当てながら、
「あ、これ、夏にうちの代理店で中国フェアをやった時に作った飲茶シール。いっぱい余っちゃって…捨てるのは勿体ないからずっと持ってたんだけど…」
立体的なシールを指でプニプニ突ついて言った。そこにはリアルに描かれているシュウマイや肉まん、餃子のイラストがあった。
「これ、大野先生のスマホに…」
それを手に取って呟くと、
「そうそう。智、やけに気に入ってたな。欲しかったらあげるよ」
聡美さんは俺に応えてから「はぁ」とため息をついてスマホを耳から離し、その画面を睨んだ。
「やっぱり智 出ないや… 何してんだろ…今日って文化祭だったんでしょ?」
「あ、うん… でもとっくに終わった」
「だよね… 智、担任を受け持ってないから、終わったらすぐ帰れそうに言ってたんだよ。なのに全然連絡つかない… なんかあったのかなぁ」
そう言うと聡美さんはまた大きなため息をついた。
…そう言えば小林先生も大野先生がいなくなったって探してた…
チクっと、こめかみの辺りに針で刺されたような痛みが走った。
「智ももういい年だし、普段なら半日連絡つかないくらいは気にしないんだけどさ… あの不審者、ストーカーかも知れないって思うと気になって。だってニヤついた嫌な顔でこっち見てたもん」
こめかみを押さえた俺に聡美さんが言った。
「顔、見たんですか」
尋ねると、
「フード被ってたし、遠目だったからハッキリは見てないけど… でも、笑ってたのは分かった。ニヤニヤしてる口元が気味悪くて… 嫌な感じの男」
答えながら彼女は、気持ち悪い物に触った後みたいにお絞りで両手をゴシゴシ拭いた。
「…男」
「間違いないよ。背が高くて、細身の」
彼女の言葉にまた俺の こめかみがチクリと痛む。
指でそこをさすると、さっき特別教室棟の窓に見えた神宮の顔が ふっと浮かんだ。
…アイツ… なんであんな所にいたんだ…?
お化け屋敷の片付けの途中で大野先生の姿が見えなくなったって、小林先生は言ってなかったか?
…なら、特別教室棟の中にいたんだよな…
…神宮も残っていた… なんで?
お化け屋敷の順路の説明をしている大野先生に やたらと馴れ馴れしく接していた神宮が思い出された。
今思えば、大野先生も、最初は俺のメイド姿にめちゃくちゃウケて笑っていたのに、神宮が現れた途端に業務的な話し方になった、気がする。
「まさか…」
神宮は元から妙に大野先生に執着していた…
でも、だからって、ストーギング?
まさか
なんの目的で…?
こめかみを押さえたまま黙り込んだ俺に、
「なに、なんか心当たりあるの?」
聡美さんが身を乗りだして顔を覗き込んだ。
「…いや、心当たりって言うか… だってそんな」
否定しようとしても、ザワザワと胸が騒ぎ始める。
ズキンと一際強い痛みが走った時、自分のコーヒーカップの中にふわりと何かが舞い落ちたのが見えた。
俺は大きく目を見開いた。
それが1枚の、薄桃色の花びらだったからだ。
その瞬間、
『今日 町であの人に声をかけられたんですよ! 隣り町の道場の、背の高い、鳶色の髪をした、あの嫌な…長谷川とか言う人』
耳の奥で律の声が響いた。
『一緒に芝居でも観に行こうって、しつこく誘われて腕を引かれたんです!嫌になっちゃう。今日だけじゃないんですよ? 何度も断っているのに! 慎太郎さん、なんとかして下さい』
律、
分かった俺が話をつけるよ。
記憶の中で慎太郎が返事をする。
途端に場面が変わったように、
『お律さんに近づくなって、どうしてそんな事、慎太郎さんに言われないといけないんです?』
長谷川の半笑いの声が響いた。
『お律さんは嫌がってる? 嫌よ嫌よも好きの内って言葉があるでしょう?』
『じゃあこうしましょう。剣で決めようじゃないですか。俺が負けたら、お律さんには金輪際チョッカイを出しません。その代わり… 』
「二宮くん? どうしたの? 大丈夫?」
肩を揺すられて俺は我に返った。
瞬きするとズキンとまた酷くこめかみが痛んだ。心臓がバクバクと騒ぎ、肺が必死に酸素を求め、俺はしやくり上げるようにして息を吸い込んだ。
「二宮くん、ホント、大丈夫?」
その言葉に頷いて視線を向けると、聡美さんの心配そうな顔にようやくピントが合った。
「…大丈夫… あの、俺、やっぱ先生のこと気になるんで学校戻ってみます」
カラカラに渇いている喉からは掠れた声しか出ず、俺はカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。花びらはもう見えなくなっていた。
「え、学校?」
そんな俺を聡美さんは驚いた顔で見上げた。
「その… 上手く言えないんだけど… 嫌な予感がする… 」
俺は彼女に視線を合わせずに口元を手の甲で拭い、
「俺、まだ忘れてることがあるみたいだ… 今度こそちゃんと思い出さないと」
独り言のように呟いて鞄を掴んで肩に下げた。
「え、ちょ、どう言う事?」
「コーヒーごちそうさまでした。先生見つけたら、すぐに連絡させます」
ペコリと頭を下げて歩き出そうとした時、
「待って待って」
彼女は俺を引き止めて自分の鞄を漁り、
「よく分かんないけど… これ、私の名刺。携帯の番号書いておくから、もし、何かあったらすぐに電話して」
彼女は名刺の裏に素早くペンを走らせ、それを俺に握らせた。
「分かりました」
俺はそれを制服の胸ポケットに仕舞い、再び頭を下げてから店を飛び出した。
つづく
今週も読んで頂いてありがとうございます😊
さて、今回は
学校の配置を大まかに図にしてみました。
雑💦
でもまぁ大体こんな配置だと思ってもらったら
間違いないかと
いや間違ってるかも💦
音楽室は特別教室棟に第一があり、
校舎の中に第二があります。
そう言うことにして下さい(*ノ▽ノ)
全部終わったら加筆しますー
あと、剣道部の部長も
1話では「主将」って書いてました💦
あとで部長に統一しますので
ご了承下さい。
ちなみに『格技室』
一階が剣道
二階が柔道
で
使う
道場になっております。
以上
自分が忘れないための
雑な配置図の説明
でした!
ではまた来週!
さようなら〜✨