劣等感、嫉妬、怨念-山崎さやか氏『NANASE』を読む | pick a moon dog

劣等感、嫉妬、怨念-山崎さやか氏『NANASE』を読む

久しぶりに山崎さやか氏の『NANASE』
を読み直しました。原作は筒井康隆氏です。

本書の主人公は超能力者です。彼女が超能力者と言う悲しい運命と向かい合って生き、死んでいくまでの物語です。彼女の能力は人の心を読めることです。このようなシチュエーションのため、主人公以外の登場人物や悪役の心理状態が自然に描かれています。彼らの心理描写が素晴らしい。特に、人は如何に自分を正当化・正統化するのか、また、それを阻む存在に対して悪意を持つのか・・・。人間の負の面を見事に描いています。

山崎氏はこれ以前の著作、『マイナス』も含め、負の力を糧にして生きる人間のメンタリティーを描くのがうまいなぁ、と感心させられます。しかも、氏は若い!どういう人生を歩んできたのか不思議でしょうがありません。 結局、世の中で一番怖いのは人間の怨念ですね。怨念を生む要因は多々あるでしょうが、主なものはコンプレックスとそれに伴う劣等感・嫉妬でしょう。このような不公平な能力差にたいする、嫉妬や怨念は根深いもので、そう簡単には解決できないものでしょう。

やや趣は異なりますが、民俗学者の小松和彦氏は日本文化論の立場から、このようなメンタリティーを憑きものという切り口で検討されています『憑霊信仰論―妖怪研究への試み』)。特に本書1章の「『憑きもの』と民俗社会」はとても面白かったです。僕は民俗学をちゃんと勉強したことはないですが、読みやすかったのでお勧めです。

『NANASE』は悲しい結末ですが(ネタバレですみません)、『マイナス』 の結末がこのような問題への一つの対処法なのではないでしょうか?要は自分を持つことです。自分で考え、自分で決断して生きていく。そうすれば、他人云々ではなくなるはずです。まぁ、こう言う生き方ができていない僕が偉そうに言える提案ではないのですが…。

最近の山崎氏の著書、『はるか17』は上記のような負のメンタリティーではなく、正のメンタリティーをテーマにしているような気がします。辛かろうが何であろうが、下ばかり向いていてもしょうがない、というプラスの刺激を受けます。何か吹っ切れたのでしょうか。コミックには30歳になったということが書いてありましたが、20代後半から30代前半は心理的に変化のある時期なのかもしれません。

僕も物の考え方が変わってきました。そろそろ、将来の夢に燃える年代から、どう人生を終わらせるのか、を考え始める歳なのかもしれません。