流れは同じだけど解釈が違う。
「獣の奏者エリン」が無事終了したので原作を読んでみました。
アニメと対比させると結構色々な読み方が出来て面白かったです。
新年一発目は第二部「探求編」「完結編」の感想書きます。
分かり易さなら原作版
やはり分かり易さなら原作版を読んだ方が良い。
なにしろ色んな部分が地の文や台詞でで説明されたりしているんですから。
特にアケ村の内実は短い分、原作版の方が端的に示されているので把握はし易いです。
ちなみに物凄く否定的な書き方です。アクン・メ・チャイの事とかも、原作の方が分かり良いかな。
一方、それを考えるとアニメ版は出来る限り現象で表現しようとした事が分かります。
この複雑に入り組んだ世界観や、その中の人物の心境を言葉ではなく映像や行動そのもので示そうとしていたように思われます。それ故、しばしば考え込んだり、穿ちすぎてしまった部分も多々あるのですが、やはりTVアニメならではの表現に拘ったことと、規制の厳しそうな物語の中でバンクや暗喩などを用いて現す技法は、秀逸というべきでしょう。
実はエリンさんのキャラも違う
原作で一番驚いたのがエリンさんのキャラです。
思ったより普通の人だなぁ、という印象。
何がそう思わせるのかと言えば、他人に対する好悪の情。
本来は結構日常でも好き嫌いをハッキリさせるタイプだったみたい。
性質上差別を受けやすいから当然と言えば当然なんですが。
実の祖父についても「母を見捨てた」事で侮蔑的なイメージで述懐するシーンがありますし、カザルムでも嫌いな教師が居た。
これは当たり前の人間描写ですが、アニメでは、そういう感情描写を極力排除しているように思えました。
これは何故かと言えば、エリンさんの情動をより「人と獣」に向いているように見せる為だったと思っています。
日常の好悪は全然頓着しない。
その代わりに獣を人に従わせようとする輩は絶対に許さない。
そういうキャラ作りをするせいだったのではないか、と。
そういう意味合いから言って、エリンさんの中の人は評判が悪いですが上記のアニメ版エリンさん像を成立させるのに一役買っていたのかな、とも思えます。真面目で不器用で、でも自分の意志は貫き通す。
そういうぎこちないけど凄い人、という印象はアニメ版では強烈でした。
セイミヤ陛下が言った「神の導き」へのツッコミも、実は一瞬躊躇った末に言ってるんですけどアニメ版のエリンさんはズバッと刺してますからね。そういう解釈で組み立てられていたんだろうなァと思います。
アニメではリランがあまり描写されていない
原作では、なんとリランがエリンさんの教えた単語を自ら組み合わせて会話をする(もちろん鳴き声ですが)というシーンがあります。王獣の賢さを示すエピソードですが、これもアニメでは削られている。
何故か。
それは恐らく最後のシーンの為でしょう。
王獣が賢いことがあまりに明白すぎると、音無笛による断絶の後にも希望を抱かせてしまいます。
もちろん伏線的な活用も出来るのですが、逆にあのシーンを予想しやすくしてしまう。
それ故に、アニメはリラン自身の描写はかなり抑えめ。何を考えているか分からない、という印象を強くしています。
また原作では最後のシーンもリラン自身がエリンさんを襲うと見せ掛けて実は……という書き方をされています。
これはこれでいい味なのですが、一度離れたリランがわざわざ闘蛇ではなくエリンさんを狙って襲う訳がない。卒業参りのヤンキーじゃないんだから。
つまり、ある意味結末を予想しやすくしてしまう。
ここのキモは「断たれた絆が実は奥底で繋がっていた」という部分ですから、出来るだけリランの描写は少ない方が意外性をもたらすのです。説得力との兼ね合いはありますが、少なくともエリンさん側からの献身は嫌と言うほど描写されていますから、それで良いんじゃないかと。
両方に目を通してみましたが、別作品と捉えてもなかなか甲乙付けがたい部分があります。
あちらを立てればコチラが立たず、という感じ。
アニメ先行だったせいもありますが、個人的にはアニメのが好きかな。
ソヨンと闘蛇の関係は第二部「探求編」「完結編」に記されています。
先ほど感想書くとも言いましたが、こちらも既に読了……というか買った次の日には4冊終わってました。
児童書カテゴリなので読み易いにしても、これほど一気に読んだのは久しぶりだなぁ。
『神は沈黙せず』を一日で読んだ時以来か。
僕がアニメ終了時に
「新作も既に発表されていますから、エリンさん達はこれからも獣と人について様々な苦難に遭うのでしょう。
ただ、それすら乗り越えていける。
彼女と、その魂を受け継いだ子供なら。
僕はそう信じています。」
こう言っています。
しかしながら『獣の奏者』という作品は「乗り越えた・乗り越えられない」「幸福・不幸」という括りでは全然語れない作品でした。それこそ『ダークナイト』や『グラン・トリノ』に通底するような複雑な主題を抱えています。
全部読んだ結果は物凄く複雑な心境なのですが、でもこれがエリンさんの生き方なんだろうなぁと強く感じます。