久しぶりの黒澤映画。
僕は黒澤映画だと、三船敏郎より志村喬が好きなんです。
基本オヤジキャラ好き、それだけの理由www
しかしこの映画では主演が志村にも関わらず、三船の凄みがよく出ていました。
だから逆にラストの展開が少し飲み込みにくかった。
三船が岡田というヤクザの絡みで最後に死ぬのは、岡田という名前が出た辺りで既に予期していたんですが、せいぜい相討ちだと思っていたんですね。
まさか犬死にになってしまうとは……という感じで。
で、ウィキとか読んで分かったのですが、本来三船演じる松永という役は、ひたすら落ちぶれていくロクデナシという侘びしい役柄だったんですね。
本来の製作意図から言えば同情されても憧れる様な存在ではなかった。
ところが三船自身のキャラがあまりに立っていたが為に野性的な魅力の部分が大きくなってしまい、結末とややチグハグな印象になってしまった。
松永はいわばジョーカーなんですね。
自由主義者。
他人なんざしらん。
自分がやりたい事をやり、自分の主義だけを通してやる。
たとえその先が破滅に進もうとも。
そういうキャラクター。
日常的な倫理観からすれば噴飯物ですが、同時に人間はそこに惹かれる傾向を持っています。
黒澤は元々そういう部分も含めて批判しようとしたけれど、結局映画として三船という役者の魅力を押し進めざるを得なかったのでしょう。
最後に志村演じる医者は松永と対照的に結核を治療した少女を見て
「理性こそ良薬だ」
と結論付けます。
確かにそこには希望があるのですが、それでも破滅的な野性である松永の魅力を否定しきれないんですね。
もちろん志村喬の演技もキャラクターも含めて非常に面白く、全体としても面白かった。
ただ三船という強烈な個性によって表現したかったものと、表現されてしまった物の温度差が生じており、それこそがこの映画の本当の魅力なんじゃないかという気がします。
追記
結核を治した少女は久我美子
さんという方で、平田昭彦
の嫁さんらしいです。
元・華族という事で、なるほど若いのに上品な身綺麗さが備わっておりました。