月白の水平線 籠中の鳥2 | *Aurora Luce**

月白の水平線 籠中の鳥2

奇声は確かに人だかりから聞こえてきた。
しかも、その人だかりの中心が発生源のように思われた。
 
私には奇声に聞こえたが、
もしかすると意味のある言葉だったのかもしれない。
だが、あまりに突然聞こえてきたので、
私の耳では奇声としてしか認識できなかった。
 
とにかく、いきなり耳を驚かせた声に、
私と伯爵は期せず顔を見合わせた。
 
「まさか……」
「かもしれないな」
 
私が言葉を濁したのは、
伯爵なら口にしなくてもわかると確信していたからだ。
 
「行こう」
 
そう言ったのは伯爵だ。
どこに行くのか。クルマリオン専門店ではない。
 
素通りしてもよいのに、と内心思ったものの、
伯爵の気性的に放っておけないだろうと判っていたから、
黙ってついて行くことにした。
 

人だかりの輪の外縁まで来ると、

 
「ヤコムさん、もう帰りましょう。飲み過ぎですよ」
 
本気で困っている様子の青年の声が、輪の中心から聞こえた。
声の持ち主の姿を見ようと頭を動かしていると、
 
「やはりか」
 
私の横で伯爵が小さな声でうめいた。
 
輪の中央には二人の男性がいた。
 
帰ろうと説得していたのは、
まだ十代のように見える優しそうな青年だった。
奇声を発したのはもう一人の男性、こちらは三十代半ばのようだ。
どこから見ても酔っ払い以外の何者にも見えない。
典型的な酔っ払いの赤ら顔をして、通りのど真ん中に座り込んでいた。
 
周囲の人々も、もう酒はやめとけ、
館に戻った方がいい、と彼らに声をかけている。
こう言われていることからも、
二人が漂着したネルドリ人であることは間違いないだろう。
 
しかし、尻を通りと仲良しにさせて顔を赤くしている男性は、
 
「いくらでも飲んでいいと言われたんだ、お館さまにだぞ!
 なんで帰らないといけないんだ!」
 
呂律が回っていないので正確には聞き取れなかったが、
こう言っているように聞こえる口調で、周囲にわめき散らした。
 
「困ったもんだねえ」
「おとなしく飲んでてくれればいいんだがな」
「あの人たち、最後にはいつも暴れ出すからなあ」
「ネルドリから来たんだもんねえ。
 慣れない土地で、辛いのはわかるんだけど……」
 
様子を見守っている人々からの、このような囁きが耳に入ってきた。
ネルドリさんのこういった行動は、
町の人たちにとって日常茶飯事になっているようだ。
 
このドナーク島のネルドリさんたちの存在は、
既に王都でも新聞に載り話題になっている。
彼らが未だにネルドリ本国に引き渡されずにいることは、
喜ばしいことなのだろうが、
このまま彼らが放置されておくことはないだろう。
ネルドリが何らかの動きを見せた時、彼らの命運が決まる。
 
そのような重圧の中で日々を無為に過ごすことが、
どれほど心に負担をかけるのか。
私の目の前に答えの一つがある気がした。
 
人々の声は伯爵の耳にも届いただろう。
わが主がどのような反応をするだろうと思っていると、
 
「ここで待っていてくれ」
「え、ちょっと待って、かっ……!?」
 
止める間もなかった。
伯爵は私に耳打ちすると、輪になっている人々をかき分けて、
素早くネルドリさんたちの元へ向かってしまわれたのだ。
 
若いネルドリさんが伯爵に頭を下げた。
彼に伯爵が声をかけたのが見えたが、
 
「誰だ?」
「お屋敷の人?」
「あんな人お屋敷にいたか?」
「初めて見る顔ねえ」
「旅の人かもな」
「こういうの、慣れてるのかしら。すごいわ。
 私だったら無視して通り過ぎちゃうのに」

「介抱してくれるのか? その方が坊やも助かるな」

 
などという周囲の人々の声が大きすぎて、
伯爵とネルドリさんたちとのやりとりは聞こえなかった。
坊やというのは、若いネルドリさんの方のことだろう。
 
ただでさえ、年長者というのは年下の言うことは聞かないものだ。
それが酒気を帯びていればなおのことだろう。
伯爵の助け舟は、若いネルドリさんにはありがたいものに違いなかった。
もっとも、伯爵と私にとっては、
目立つことはあまりよろしくないのだが。
 
伯爵とネルドリさんたちは何やら話し込んでいるようだが、
やはり会話は聞こえない。
周りの人たちの話も、
ネルドリさんたちとは関係ない雑談になりかけていたが、やがて、
 
「このまま、ここに置いておく訳にもいかないよな……
 みんな、いつもどうしているんだ?」
 
大きめの声量で周囲に訊ねる伯爵の声が聞こえた。
 
「いつもは、お屋敷からお迎えが来て、連れて帰ってくれるのよ」
「けど今日は遅いな……忙しいのかな?」
「兄ちゃんも、ここで伸びてても辛いだろうになあ」
「港の休憩所で休んだらどうだい?
 お屋敷よりは近いし、そこまでなら歩けるんじゃないかねえ」
「そうだね、あそこなら横にもなれるしね」
 
周囲の人々から建設的な反応が返ってきた。ところが、
 
「でも、誰があそこまで連れて行くんだ?」
 
誰かが放ったこの言葉に、あたりは静まり返った。
しかし、ここで健康的善人ぶりを発揮した人物がいた。
 
「では、私がそこまで連れて行くとしよう。
 二人とも、それでいいな?」
 
他でもないわが主であった。
 
若いネルドリさんはすぐに頷いたが、
年上のネルドリさんは頭を動かす気力もないのか、うなだれたままだ。
 
「じゃあ、お屋敷の人に伝えておかないとね……
 誰か、お屋敷に用事ある人いないかい?」
「おお、ちょうどこれから御用聞きに行くとこだったんだ。
 だから伝えとくよ」
 
都合のよいことに、デナリーさんのお屋敷に行く人がいるらしい。
野次馬というものも、こういう場合には助けになる。
 
「ありがとう。ではすまないが、よろしくお願いする。

 なるべく早く来てもらえると助かるんだが……

 おまえたち、私がいなくなっても、
 お屋敷の人が来るまで、おとなしく待っていられるな?」
「はい、大丈夫です!」
 
伯爵の声に、若いネルドリさんは
大切な書簡を預かった伝令のように真剣な顔で答えた。
 
伯爵がなるべく早く来てもらえると助かる、と言ったのは、
私たちも出航時間までに船に戻らないといけないからだ。
 
しかし、具体的に『船に戻らないといけない』と言ってしまうと、
万が一何かあった時、私たちが乗る船を特定されて、
身元が割れる可能性がある。それは非常にまずい。
 
だから伯爵はそこまで言及せずに、こちらも後の予定があるから、
なるべく早く迎えに来て欲しいことをほのめかしたというわけだ……
伝わったかどうかは別として。
 
もっとも、伝わっていてもいなくても、
私たちも出航時間までには、必ず乗船しなければならない。
時間が来ればネルドリさんたちを置いて船に戻る。
その時は、若いネルドリさんが
一人で飲んだくれネルドリさんのお守りをすることになる。
可哀想ではあるが、私たちができるのはここまでだ。

 

「助かるよ、ありがとうねえ」

「すまねえな、恩に着るよ」

「ごめんなさいね」
「よろしく頼むな」
 
皆さん口々に感謝の意を述べたものの、
自分の家や店で休んでいけばどうだ、と申し出る人はいなかった。
 
「え……じゃない、ええと、ああ、サシャータ!」
「は、はい!」
 
伯爵の口から予期せぬ固有名詞が出てきたが、
さすがは私、すぐ自分が呼ばれていることに気がついた。
 
ここはデナリーさんの治めるドナーク島。
あの健康的善人面でも、
咄嗟に私を本名で呼ぶのはよくないと判断したのだろう。
正確にはエリーは愛称なのだが、
少しでも身元が割れそうものは公表しない方がよい。
 
わが相棒たる、かつら嬢の名前を教えておいてよかった。
こういったことを、
打ち合わせなしに気づいた私を褒め称えて欲しいものだ。
 
「クルマリオン四つ、買っておいてくれ!」
「はい!」
 
四つということは、
ネルドリさんたちにも買って差し上げろということか。
つまり、港の休憩所で一緒に食べようと。
 
まあいい。
飲んだくれネルドリさんに食欲があるかは謎だが、
とりあえずドナーク島での目的は全て達成できそうだ。
 
ネルドリさんたちを見守っていた人々が散り散りになるのと同時に、
私もクルマリオン専門店に向かうことにした。
 
 
 
『クルマリオン専門店 チーズの沼』の
スペシャルクルマリオンシーフードミックスは、非常に美味であった。
 
海鮮と三種のチーズが、
外はかりっと、中はふかふかしたパンとの完全な融合と調和を果たしていた。
食べ終えてしばらくしてもなお、
海と山の恵みの多幸感溢れる化学反応が、私の口腔内を満たしていた。

 

ここは港の端にある、船乗りや観光客のための休憩所。

昼食どきを過ぎているせいもあってか、私たち以外には誰もいなかった。

 
私が絶品クルマリオンを入手している間に、
伯爵は飲んだくれネルドリ氏を懐柔したようだった。

飲んだくれ氏も多少酒が抜けてきたのか、

ゆっくりした歩みではあるものの、おとなしく港までついてきた。
 
ここなら今のところ人もいないし、周りにあるのは机と長椅子だけ。
飲んだくれ氏が酒を補充できない点でも安心だ。
伯爵と私が去った後、飲んだくれ氏がおとなしくしているかはわからないが。
 
「ごちそうさまでした、とっても美味しかったです!」
 
若いネルドリさんは、とても大切そうにクルマリオンを食べていた。
ようやく食べ終えると、丁寧にお礼を言ってくれた。
 
「初めて食べたのか?」
「はい」
「そうか。確かにうまかったな。また食べに行くといい」
「ありがとうございます」
 
若いネルドリさんはそう言うと、またお辞儀した。
礼儀正しいネルドリさんだ。
 
一方の飲んだくれ氏は食欲がないらしく、クルマリオンに手をつけていない。
『チーズの沼』のおばあさんが、
『あの兄さんには、こっちの方がいいかもねえ』と言って、

おまけしてくれた水をちびちび飲んでいる。

 
「ネルドリのどこ出身だ?」
「はい、カンブルという村です」
「カンブルというと、だいぶ北だな」
「そうですね」
「こんな遠い所に来て、心細いだろう」
「はい。でも今は、お館さまも皆さんも、よくしてくれるので」
「そうか……」
 
伯爵と若いネルドリさんは、
ここまでの道中でも和やかに会話していた。
だが、先程までは当たり障りのないことを話していたのに、
ここにきて伯爵は彼らの故郷について触れてきた。
 
私は伯爵に念を送った。
あまり彼らの個人的な事に深入りしない方がいい、という念だ。
 
伯爵のことだ、彼らのことを知れば知るほど、
感情移入してしまうだろう。
そうなれば、間違いなく辛くなるから。
 
しかし、私がいつもと異なる視線を向けていることに、
伯爵は気づいているのかいないのか、
あるいは気づいているのに無視しているのか……
 
恐らく伯爵は、故意に私の懸念を察していないふりをしている。
 
仕方なく私は念の送信を諦めて、
伯爵たちの会話に耳を傾け向けることにした。
 
「今日は、他の仲間はどうしているんだ?」
「はい、みんな昨日出歩いていたので、
 フツカ・ヨイ? で寝てる人もいます」
 
フツカ・ヨイ……二日酔いのことか。
ネルドリさんたちには、お酒にまつわる言葉は縁のないものだったろう。
 
「君とヤコムは平気だったのか?」
「僕はまだ十代なのでお酒飲めないですし、
 ヤコムさんはお酒強いんですよ。
 昨日もたくさん飲んだのに、今日も飲みたいって」
 
若いネルドリさんは、やはり十代だったのか。
十代に酒を与えなかったことは、デナリーさんを褒めてやっていいだろう。
 
そして、ヤコムさんこと飲んだくれ氏。
とても酒豪には見えないが、ネルドリさんの中だと強い方になるのか……
などと考えていたら、
 
「だってよう……」
 
弱々しい声が斜め向かい側から聞こえてきた。
飲んだくれ氏もといヤコムさんだ。
 
「お館さまが、好きなだけ飲んでいいって言うから……」
 
そう呟くとまた水を飲み、酒臭い息を吐いた。
 
「わかったろうヤコム。
 飲んでいいと言われても、気分が悪くなるほど飲んではだめだ。
 辛くなるだけだろう?」
「うう……」
「マッカランさんが言ってたみたいに、
 ご飯を食べながら飲めばいいんじゃないですか?
 それをみんな、お酒ばっかり飲んで食べないから、
 気持ち悪くなるんじゃないでしょうか。
 飲めない僕が言うのもなんですが……」
 
若いネルドリさんの言うマッカランさんとは、
ネルドリさんたちのお世話係だろう。
こんな優しそうな男子の、遠慮がちで悲しそうな顔を見ると、
こちらまで悲しくなってくるではないか。
こらヤコム! 年下に世話焼かせるんじゃない!
と言ってやりたい気分だったが、
 
「いや、おまえの言う通りだよ……めんぼくねえ」
 
ヤコムさんが若いネルドリさんに頭を下げたのを見て、
この人はお酒を飲まなければいい人なのだろうという気がした。
 
というか、ネルドリさんたちみんな、食べずに飲んだくれているのか。
それでは二日酔いで起き上がれないのにも頷ける。
私は酒を嗜まないが、
大学にいた頃、同級生が酒について話しているのを聞いていたので、
知識だけはそこそこあるのだ。

 

「ヤコムもネストルも、少しずつでいいから、
 お屋敷の手伝いでもしてみたらどうだ?
 身体を動かしていた方が気分転換にもなるし、
 腹も減って酒もうまく飲めるぞヤコム」
「そうですね! 帰ったらマッカランさんに聞いてみます!」
 
若干の脳筋魂を出して二人を励ます伯爵は、
私の知らない間に若いネルドリさんの名前を聞き出していたようだ。
 
ネストルくんこと若いネルドリさんは、
伯爵の案にとても嬉しそうだったが、
ヤコムさんはというと、なぜかかえって落ち込んだように見えた。
 
「……おれのせいで」
 
ヤコムさんの声は、喉から絞り出したような苦痛で満ちていた。
 
「おれが判断をミスったせいで、ここまで流されて」
「ヤコムさん、それは違います!」
 
ネストルくんがヤコムさんの腕を掴んで首を振った。
 
「あいつらを、あんな目に遭わせて」
 
ネストルくんの顔には、言葉にできない悲しみが滲んでいた。
ヤコムさんの言葉に必死に首を振っている。
 
「あいつら、本当はみんないい奴らなのに、あんなことになっちまって」
 
ネストルくんの頭が止まり、力を失ったようにうなだれた。
正面に座る私からでも彼の表情は見えなかったが、伯爵と私は知っている。
彼らが何をしたのか、その一端を。
 
私たちが知っているのは、
彼らのうちの誰かが、一人の女性を不幸にしたことだけだが、
他にも彼らがドナーク島で犯した咎はあるのかもしれない。
 
酒が彼らに惨事を引き起こさせ、
引き起こした惨事を忘れるがためにまた酒を飲む……
そのような悪循環が、彼らの中で日常になっているのかもしれない。
 
しかも、彼らを苛むのはそれだけではない。
 
彼らはあのネルドリから漂着した、ネルドリ人だ。
今はデナリーさんから恵まれた待遇を受けているようだが、
ネルドリに戻れば、どのような仕打ちが待っているかわからない。
彼らがカシルダに来たネルドリさんたちのように、
自らの素性や国のことを暴露していなかったとしても。
 
ネルドリにとって敵性国家であるわが国に流れ着いてしまった時点で、
彼らの命運は決まっていると言っても過言ではない。
 

そのような敵性国家に流れ着いたにも関わらず、

過分なもてなしを受けていることを、彼らはどう感じているのか。

当初は戸惑っただろうが、もしかしたら自分たちは助かるかもしれない、

こんなにいい待遇を受けているのだから、

という淡い期待も湧いてきているのではないだろうか。

 

しかし、酒という味わったことのない飲物に出会い、

その魔力に侵されたせいで罪を犯し、

町の人々に煙たがられる存在になりつつあるとなれば……
 
ヤコムさんとネストルくんの心情は、容易に推し量れるものではなかった。
 
「全部、おれのせいなんだ」
 
確かに、酒に溺れてしまったことは悪いことかもしれないが、それは違う。
 
酒を知らないあなたたちに、
そうなるきっかけを与えた無知な偽善者は誰だ?
そしてそもそも、あなたたちがここに漂着せざるを得なくなったのは、
誰のせいなんだ?
恐らく、ろくに燃料も持たされず、遠方まで航海できる船でもないはずなのに、
それでも漁に出ざるを得なかったのは……
 
ヤコムさんの目から溢れるものに、
ネストルくんの俯いた顔の真下の床を濡らしているものに、
胃の底から重く熱いものがこみ上げてきた。
 
隣に座る沈痛な伯爵の顔も見ていられなかった。
私と同じようなことを考えているのだろうと確信した。
だからこそ、私は人見知りを発動させている場合ではなかった。
 
「ヤコムさん」
 
ここまで口を開かなかった私が、声を発したことに驚いたのだろう。
ヤコムさんは驚いたように私を見た。
 
「そのお水、クルマリオンの店のおばあさんがくれたんです。
 ヤコムさんにはお水の方がいいかも、って」
 
水の入ったボトルを握るヤコムさんの手が、微かに震えた。
 
「今度お店の近くに行ったら、お礼を言ってあげてください。
 『チーズの沼』というお店です」
 
ヤコムさんから返事はなかった。
涙を流しているのだ、声を出しづらいのもあるだろう。
返事は求めていなかったから構わなかった。
私の言うべきことは言った。
 
町の人たちも、そしてデナリーさんのお屋敷の人たちも、
まだ彼らを完全には見放していないし、
彼らと関わるのを恐れながらも心配している。
それをわかっていて欲しかった。
 
ネストルくんが洟をすすりながら頷いてくれた。
酒の残っているヤコムさんがお店の名前を忘れてしまっても、
ネストルくんは覚えていてくれるだろう。
 
時刻が気になって、鞄から懐中時計を出した。
文字盤はそろそろ船に戻らなくてはならない時間を指していた。
 
「そろそろ、時間です」

 

私が短く告げると、伯爵は名残惜しそうに立ち上がった。

 

「ヤコム、クルマリオン、美味いぞ。後でいいから食べてみろ」
 
伯爵の声は僅かにかすれていたが、
二人のネルドリ人に向けた眼差しには、強い力が宿っていた。
 
「二人とも、元気でな」
 
この一言に、どれほどの思いが込められているか、
二人には届いただろうか。
 
伯爵は二人に笑顔を向けたが、私は表情を繕うことができなかった。
少しでも長く、元気でいて欲しいという思いを込めて、頭を下げた。
 
 
 
休憩所から出て扉を閉めようとした時、視界の端に、
嗚咽を堪えながらクルマリオンを頬張るヤコムさんの姿が映った。
 
 
 
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*2024.3.15一部変更しました。
 
 
 
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