その後はただただバスケに夢中になっていて、やっとお互い足を止めた時には既に辺りは薄暗くなっていた。 

「あの・・・青峰君」 

「何だよ」 

ベンチに腰を下ろしてスポーツドリンクを飲んでいると、黒子が申し訳なさそうに「タオル貸してもらえませんか」と言ってきたので、そんな事かと自分が先程まで使っていたタオルを黒子に手渡した。 

「・・・青峰君の匂いがしますね」 

タオルを鼻先に近付けて、黒子は微笑んだ。 

「臭くて悪かったな。それしか持ってねーから我慢しろ」 

「そういう意味じゃないですよ。・・・何だか安心します」 

そう言ってふわっと笑う黒子を見て、青峰は胸をグッと掴まれた様な感覚を覚えた。 
これが無自覚なのだから性質(たち)が悪い。 

「青峰君」 

「な、何だよ」 

心の動揺を見抜かれないように、青峰は出来るだけ平静を装う。 
鋭い黒子の事だから、単純な青峰の隠し事など直ぐに見抜いてしまいそうだが。 

「1on1もいいですけど、またボクのシュート練習にも付き合って下さいね」 

「気が向けばな。てか、火神に付き合ってもらえばいいんじゃねーの?」 

青峰は言ってから後悔する。
つまらない嫉妬だ。 

「ボクは青峰君がいいんですっ」 

黒子は語調を強めて言って、青峰に抱き着いた。 

「テ、テツ!?」 

小さくて華奢な身体が懸命に青峰を抱き締めている。 
その身体が僅かに震えていて、青峰はそっと黒子の背に腕を回した。 

青峰にとって黒子は、いつだって庇護欲をそそられる存在だ。 
友達、唯一無二の相棒、それ以上の深い関係に、自分だけの黒子にしたい。 

「・・・悪かったな、テツ」 

色々考え抜いて口下手な青峰が口にしたのは、その一言だった。 
その一言にどれだけの想いが詰まっているのか、黒子ならきっと分かってくれるだろう。 

「オレから離れたのは分かってる。テツの言葉にも耳貸さねーで・・・」 

ぎゅっと黒子を抱き締める腕に力を込める。 

誠凛と戦って負けた時、ようやく周りが見えた気がして、同時にとても大切な存在を失っていた事にも気が付いた。 

「いいんです、もう」 

もぞもぞと動き出した黒子の為に腕の拘束を少し緩めると、腕の中で上目遣いに黒子が青峰を見つめていた。 

「・・・正直に言うと、君がボクを全く見なくなった時悲しくて胸が張り裂けそうでした。ボクが何を言っても君には届かないし、君の目にボクが写っていない事が悲しくて、絶望さえ感じました」 

青峰に縋り付く黒子の手が震えている。 
思っていたよりずっと黒子に悲しい思いを、辛い思いをさせていた様だ。 

「ボクはもう青峰君と離れたくないです・・・っ。ずっと一緒にいたい・・・!」 

黒子の切実な願いに「オレもテツと一緒にいてぇよ!」と、黒子を強く抱き締めた。 

もう失くしたくない。大切な友達であり相棒でもある、黒子テツヤという存在を。 
二人が肩を並べてやって来たのは、バスケットコートのある公園だった。 

先客がいるようで、ボールが地面を跳ねる音や、バスケを楽しむ学生達の声が聞こえる。 

取り敢えずコートの傍にあるベンチに向かいながら「1no1やろーぜ」と、青峰は黒子を誘う。 

「別にいいですけど、ボクも青峰君もバスケットボール持ってないですよ」 

「ちょっと待ってろ。調達してくっからよ」

青峰はそう言ってズボンのポケットに手を突っ込んだままスタスタと歩き出し、先程からバスケを楽しんでいる学生達の所へ向かった。 

「おい、何だよお前」 

いきなりコートの中に入って来た青峰に学生の一人が声をかけてきた。いいところを邪魔されて不機嫌な様子だ。 
だが青峰は当然怯む事なく「ボール貸してくんね?」と、学生を見下ろした。 

青峰が発した言葉はたったそれだけだったが、彼から漂う有無を言わせぬ黒いオーラに怯んだ学生は素直にボールを青峰に手渡した。 

「サンキュ。後でちゃんと返すからよ」 

そう言って青峰は踵を返し、黒子の元へ戻 った。 

「ほらよ」 

ボールを黒子に向かって投げると、黒子は溜め息をつきながらそれを受け取った。 

「青峰君。脅しはいけないと思いますよ」 

「脅してねーし。普通に貸してくれって頼んだだけだ」 

本当に脅したつもりなどないのだが、きっと相手はそう思わないだろう。 

「後でボクがちゃんと返しときますから」 

言って黒子は制服の上着を脱ぎベンチの背に掛けると「さぁやりましょうか」と、ボールを持ってコートの中に入って行く。 

「全力で来いよ」 

「勿論です」 

いつも何を考えているか分からないぼやんとした黒子の表情が、キリッと真剣なものに変わった。 

黒子のバスケの二次創作です。
版権元・関係者様とは一切関係ありません。
無断転載・複写行為・誹謗中傷はお止め下さい。お願いします。


最近サボらなくなった部活を久し振りにサボった。 
またさつきや若松に口煩く文句言われるかも知れないが、正直言ってどうでもいい。 
自分くらいになると、一度くらい部活を休んだからって腕が鈍るなんてことはないのだから。 

「まだかよ」 

外の冷気にすっかりと冷たくなった鼻を首に巻いたマフラーで隠し、青峰は誠凜の校門前で黒子が来るのを待っていた。 

別に約束なんかしていないが「オレを待たせるなんて、いい度胸してんじゃねーか」と、思わずにはいられない。 

そして、青峰が誠凜にやって来て二十分経った頃だろうか、前方から水色頭の少年がこちらにやって来るのが見えた。黒子だ。その隣には、赤頭のいけ好かない男もいる。 

(クソ…ッ) 

当たり前のように黒子の隣にいる火神を見る度に、苛立ちと、認めたくはないが、一抹の寂しさに駆られてしまう。

『そこ』はオレの場所だ。

今の青峰にはそう思うことも言うことも、許されない。 
自分から黒子を突き放して傷付けたのだから。 

「青峰君?どうしたんですか、こんなところで」 

「また部活サボりかよ?いいご身分だな、相変わらず」 

不機嫌を露にした火神が、スッと自分と黒子の間に入ってくる。まるで、自分から黒子を守るように。 

「うるせーよ。おい、テツ。ちょっとオレに付き合え」 

青峰は火神から黒子を引き離すように、彼の細い手首を掴むと自分の方に引き寄せた。

黒子が傍にいる。ただそれだけて、荒んでいた心が凪いでいくようだった。 

「すみません、火神君。マジバに行くのまた今度でもいいですか?」 

黒子は火神にそう伝えると「行きましょうか、青峰君」と言って歩き出し、青峰は自分を睨んでくる火神を睨み付けた後、火神より自分を優先してくれたことに優越感を感じながら、足早に黒子の背中を追ったのだった。