牡丹が捨てられた場所。それは、帰巣本能のある犬が帰れないわけがない程に
近い所だった。
まるで、自分が捨てられたことを理解しているようで、それがとても悲しかった。
牡丹を車に乗せ、私の自宅まで連れてきた。
水とフードとジャーキーを喜んで食べてくれた。
固まってしまった毛をハサミで切り、体をシャンプーすると
クリーム色の秋田犬が、赤毛に変わりビックリした。
それくらい汚れていたのだ・・・
外耳炎も酷く、膿がたくさん出ていた。
それから、一匹一匹、慎重にダニを取った。中途半端にダニの頭を残してしまうと、皮膚から脳内に入りこんでし
まったり、卵をもっていたりすると飛び散って大変な事になる。
かなり荒治療だが、日本酒でダニを酔わせ、ゆらゆらと揺さぶって一気に剥がし、ダニの頭を確認した。
仕方がない。今日はお盆の13日。どこの動物病院も連絡がつかないのだ。
我が家の犬のかかりつけの病院の留守電に、何度かメッセージをいれてみたが、折り返しの電話はなかなか来ない。
捨てた飼い主に電話をした。
「牡丹をなんで捨てた?」
「捨ててなんかいない。いなくなって戻ってこないんだ」
「じゃあ、帰ってきたらどうする?」
「そしたら、飼うよ」
「じゃあ今から連れて行くから」
「は?・・・・・・・・いらねー」
「ほら、やっぱり捨てたんだよね」
「吠えてうるさいからだ!!」
こんなやりとりをしたが、私は返そうなんて気は最初からなく、飼い主が権利を放棄する事を願っていた。
すぐにまた車を走らせ、鑑札を取りに行った。ご丁寧に血統書まで付けてくれた。
あんたのした事は犯罪だ、と教えてやった。告訴しない代わりに、牡丹は絶対に返さないことと、二度と動物を
飼わない様に約束させた。
それが正しかったのかは分からないけれど、牡丹を捨てられて傷付いている子どもたちを更に
追い込みたくなかったからだ。
あっという間に夕方になってしまった。そういえば、お墓参りに行こうとしてたんだよな・・・
もう7時だ・・
その時、電話がなった。動物病院からだった。
牡丹が診察してもらえる事になった。衰弱気味だし、少し入院させましょうと言って下さった。
私の家で飼ってあげたい。
でも、自分のキャパはもう、めいいっぱいだ。誰か、本当に牡丹を大事にしてくれる人を捜すしかない。
自分の信頼できる人達に聞いてみたけれど、なかなか見つからなかった。
そりゃそうだ。もう大きくなっているし、まして秋田犬は大きいし。
悩んだ。自分が連れてきたくせに、これか?
後先考えず連れてきて、これからどうする?
今日はお盆だ。きっと、亡くなったじーちゃんと、ばーちゃんが牡丹と私を会わせてくれたんだと思った。
出逢いって、すばらしい。本当に素晴らしい。
里親さんが見つかった。大して面識もない私と、牡丹の為に、懸命に里親を捜してくれた方がいた。
牡丹は、二泊の入院ですっかり元気になった。まるで、違う犬の様に見えるくらい笑っていたし、
本当の牡丹がやっと見れた気がした。
今、牡丹は古い名前を捨て、優しい飼い主さんの元で幸せに暮らしている。
毎日声をかけられ、散歩をしてもらい、栄養のある食事を食べることができる。
北風が入り込む寒い犬小屋も無ければ、日にカンカンと照らされることも無い。
犬にとって本当に必要なものは何か。
牡丹を見て思う。
それは、実はとてもシンプルで、人間と同じだということを。
【 誇り 】 【 信頼 】 【 安らぎ 】
どんな状況でも、犬としての誇りを失うことなく、人間を信頼してくれた牡丹。
たくさんの人のおかげで、牡丹に安らぎが与えられた事に感謝します。
牡丹 ありがとう。
