「封印殺人映画」~スラッシャー栄枯盛衰 | ゴダールよりもデ・パルマが好き

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映画監督を目指す大学生、清原悠矢の映画生活

「封印殺人映画」
2006年・アメリカ・Going to Pieces: The Rise and Fall of the Slasher Film
監督:ジェフ・マックィーン

ゴダールよりもデ・パルマが好き-封印殺人映画1


















IMBdでの評価は高いようだけれども、これは今一つだった。
ホラー映画の中でもスラッシャー映画と呼ばれる、いわゆる
殺人鬼モノに焦点を当てたドキュメンタリーで、名場面集と
作品に関連した人たちのインタビューで構成されている。
ジョン・カーペンターやトム・サヴィーニ、ウェス・クレイブンといった
大物が登場するのは素直にうれしいのだけれども、
どうにも聞いたことあるような話ばかりだし、次々に
チャプターが進んでいってしまうので、
一つ一つの作品やその時の社会現象について
ゆっくりと話を聞くことはできない(*1)。
面白くなってきたな、と思うと次の話へ移行してしまう。
あまりにも編集が早すぎるせいで、名場面として
登場するフッテージも細切れにされており、
ゆっくり見ることができないし、もちろん怖さもない。
ドキュメンタリー作品というよりもまるで特典映像のよう。
ホラー映画を見ない人にとっては、グロテスクなシーンも多く、
門戸が閉ざされているというのに、逆にホラー映画好きからすると、
物足りなく感じてしまうような実に中途半端な作りになっている。
原題を「Going to Pieces」というがこの映画自体が
一番バラバラになってしまっている印象を受けた。

ゴダールよりもデ・パルマが好き-封印殺人映画2







スラッシャー映画の歴史をまとめておくと、
源流といえるのは1960年の「サイコ」と「血を吸うカメラ」。
スラッシャー映画のお約束を確立し、古典となるのが
1978年、ジョン・カーペンターが低予算で撮り上げた「ハロウィン」。
その流れに乗って登場し、娯楽の一ジャンルとして
スラッシャー映画を定着させたのが「13日の金曜日」。
「13日の金曜日」に便乗して「血のバレンタイン」など記念日ホラーが氾濫。
しだいに批評家などからのホラー映画への風当たりが強くなり、
特に「悪魔のサンタクロース」が良識者の反感を買う。
しだいに、質の低い亜流作の量産によって飽きられてしまう。
しかし、落ち目だった流れの中で「エルム街の悪夢」が大ヒット。
(作品内で言われているように流れを上向きに変えたというよりも、
第1次スラッシャーブームの最後のあがきだったように見える)
その後、ヒット作の続編を連発したことで、また飽きられてしまう。
90年代になって「羊たちの沈黙」が登場し、サイコ・スリラーが流行。
1996年に、スラッシャー映画を見て育ってきた世代に向けた
メタ・スラッシャー映画ともいえる「スクリーム」が大ヒットとなる。
それ以降、観客がスラッシャー映画に慣れ親し見ながら育っていて、
そのお決まりを理解していることを前提としたスラッシャー映画が作られ、
現在に至るまで、ロブ・ゾンビやイーライ・ロスなどの新たな才能が
次々と現れ、また新しいブームを作り出している。

〈50点〉 

*1 インタビュー中、やたらと歩いていたり、ボートに乗っていたり、
   フラフラ、クルクルと妙に凝ったカメラワークが何故だか笑えた。