物怪観光的ロボット博覧会 第3展示室「日本のロボット」 | 日本物怪観光のブログ

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12月末まで、MoMO(物怪博物館-the Museum of Mononoke Object)では、『物怪観光的ロボット博覧会』と題して、物怪観光所蔵のロボット関連資料を紹介する、ブログ上の特別企画展を開催致しております。不定期ですが、記事同士はリンクを張って行きますので、チェックしてみて下さいませ。

第2展示室から順路に沿って次の作品の前にやってきました。

日本に於いてロボットが生まれたのはいつからでしょう。
ヨゼフ・チャペックが『ロボット』という言葉を生み出した際、当時のチェコに伝わる様々な伝承を下敷きにしたことは、第1展示室Bでご紹介しました。

そういう視点から取り上げられるのが、西行法師が高野山で作ったと謂れる人造人間のお話です。
[伏見人形「 西行童子」-MoMO(物怪博物館-the Museum of Mononoke Object)蔵]

西行について書かれた説話集「撰集抄」には、彼が人間の死体を集め、反魂の術を使って人間のようなものを作ったと記されています。
[冨山房名著文庫「撰集抄」芳賀矢一校訂-物怪図書館蔵]

生み出された人のようなものは、血色が悪く、魂も入っていなかった為、そのまま山中に置き去りにして来たそうです。
人造人間を作ることができたとされる源師仲によると、西行の作り方にはいくつかミスがあったとか。
師仲の作った人造人間は、人間社会に適合し、中には大臣にまで出世したものもあったと謂います。
ということは人間によって生み出された人造人間が、人として暮らしていたということになりますね。
ここら辺、チェコのゴーレムのお話なんかと似ています。
このように使役していたものが主人に捨てられて独り歩きを始めるお話は、安倍晴明が使役する式神や、左甚五郎が仕事を手伝わせた人形が、後に河童になったといった伝承にも通じるものがあります。
[海洋堂・荒俣宏の奇想秘物館/陰陽妖怪絵巻「 安倍晴明」-MoMO(物怪博物館-the Museum of Mononoke Object)蔵]
[讃岐一刀彫?名:刀山「河童木像」-医王山持明院 高蔵寺寄贈〜MoMO(物怪博物館-the Museum of Mononoke Object)蔵]
[TOMY大映特撮シリーズ「河童」-MoMO(物怪博物館-the Museum of Mononoke Object)蔵]
[中村産業とおめいばけボーグ「カッパキング」-資料提供・日本物怪観光]

1950年にアシモフロボット工学三原則を発表するよりも遡ること22年、映画メトロポリスが公開された翌年にあたる1928年(昭和3年)に、東洋で初めてのロボットが日本で制作されました。

その名も學天則(天則に学ぶの意)です。

制作したのは生物学者の西村真琴教授。
俳優西村晃の父親です。
昭和天皇即位を記念して大阪で開催された大札記念京都博覧会に出品され、大変話題になりました。
[「學天則」(平凡社・太陽「ロボット大図鑑」より-物怪図書館蔵)]

このロボットは机に座った状態で、動くのは上半身の手と首、顔のみでしたが、高さ3.5メートルと巨大でした。
告暁鳥という円形の屋根に取り付けられた巨大な鳥が泣くと、左手に持った霊感灯が光り、瞑想していた瞳が開きます。
次に天を仰いで微笑み、右手に持った鏑矢のペンで文字を書き始めます。
すると表情は一転、創造の苦しみを表すかの如く、苦悶の表情を浮かべ、首を左右に振ったそうです。
歩くことこそ出来ませんでしたが、その動きは非常に神秘的でした。

制作者である西村教授は生物学者なので、その作りは西洋のそれとは大きく異なっていました。
彼の著書「大地のはらわた」には、學天則について詳しく記されています。
[刀江書院「大地のはらわた」西村真琴著-物怪図書館蔵]

このロボットの原動力は空気。血管のようにはりめぐらされたゴム管に空気を送り込むことで、胴体、腕、指、頸部、顔面諸筋、眼球を動かしました。
オルゴールのようにドラムを回転させ、圧を調整した空気を送り込む機能は、肉感的で円滑な動作を可能にし、且つうるさい機械音を伴わないとされています。
故に顔などの可動部分にはラバーが使われ、目を閉じたり、笑顔になったりと表情が変えられたそうです。

その容姿や装飾にも、教授の哲学的な思想がふんだんに盛り込まれており、一度見たら忘れられない強烈なインパクトがあります。

この個性的な東洋初のロボットに注目し、自身の作品に登場させたのが荒俣宏でした。
自身の小説「帝都物語」に書いた學天則は、実写化された映画にも登場しました。
[角川書店「帝都物語1神霊篇」荒俣宏著-物怪図書館蔵]

その後、漫画やゲームにも取り上げられるようになりますが、2016年発行の京極夏彦著「虚実妖怪百物語」に於いては、荒俣宏と共にスーパーロボットとなった學天則が登場します。
[角川書店「虚実妖怪百物語・急」とこの本に対してのインタビューが掲載された「本の旅人No.253(2016.11)」-物怪図書館蔵]
[角川書店「本の旅人No.253(2016.11)」より。-物怪図書館蔵]
この本の発売を記念して行われたキャラクター人気投票では、人間以外のキャラクターで堂々1位を獲得したのでした。
[ウェブ投票用に描かれた「學天則」イラスト/天野行雄(日本物怪観光)]

今年12月22日に発売されたこの小説の文庫版では、表紙写真用に、天野行雄(日本物怪観光)が立体で學天則を制作しました。

次のフロアでは、特別展示室として、この日本物怪観光版・學天則をご紹介致します。

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