「Make America Great Again」

 

 トランプが昨年の大統領選挙で使用したスローガンだが、元は1980年の大統領選挙でロナルド・レーガンが使用したスローガンだった。

 では、アメリカがGreatだった時代とはいつのことか。

 レーガンが大統領選挙に立候補する頃、つまり1979年頃のアメリカは高失業率とインフレに苦しんでいた。

 そうすると、それ以前の時代、1950年代から60年代、70年代前半がGreatだったということだろう。自動車産業が繁栄し、鉄鋼業やエネルギー関連業、海運業などもそれに伴って繁栄した。

 それは1946年生まれのトランプにとっても、古き良き時代として記憶にあるのだろう。

 

 偉大なるアメリカ。経済も科学も軍事力も民主主義もスポーツも圧倒的世界一。世界で最も富める自由と民主主義の国。人々は世界で最も豊かで幸福を謳歌する。

 さてその時代、1ドルは何円だったでしょうか。ご存じの方は多いでしょう、360円ですね。現在の3倍以上の価値があったわけです。

 さすが世界で最も富める国。その通貨の価値もGreat。

 「ドル高はけしからん」と言っているのはどこのどなただったでしょうか(笑)。

 

 「アメリカの消費者は消費意欲旺盛」

 よく言われることである。よって、世界中からアメリカの消費者に魅力的な製品が売り込まれる。関税障壁が低く、交易がさかんならば、アメリカは世界中にドルをばら撒くことになる。ばら撒かれたドルは価値が下がる。ドル安要因となりますね、めでたしめでたし?

 いやいや、アメリカからドルが流出するのはけしからん。関税を高くしてアメリカの製品がアメリカの消費者に買われるように誘導すべきだ。アメリカは貿易赤字から黒字を目指さなくてはならない。それでこそGreatだ。それならドルの価値は上がるではないか。

 

 このバカ、経営者として財をなしたそうだが、経済学の初歩すら理解していないとしか思えない。

 

 為替レートを決定する要因の一つに金利差がある。片方の国の金利水準が高く、もう一方の国の金利水準が低ければ、金利の高い方の国の通貨が買われて高くなるということである。

 Great Againのため、トランプは財政支出による公共事業拡大を公約している。さらに減税もだ。そうするとアメリカは国債の発行を増やさなければならない。国債が増発されると金利水準は上がる。当たり前だ、国債が供給過多になれば価格は下がる(金利は上がる)。国債の利回りはリスクフリーのレートとして、あらゆる金融取引の指標となる。つまり金利水準は上がり、ドル高要因となる。ドル高はけしからんのか?

 

 国債の増発は金利水準の上昇をもたらすだけでなく、民間への資金供給を圧迫する。金融機関にとっては資金を国債で運用するだけで楽に稼げていいが、その分、民間が借入をする場合には金利や担保の条件が厳しくなってしまうからである。

 この国債増発による反作用をクラウディング・アウトという。

 

 トランプの差別思想や幼稚さについての批判も止まないが、経済政策における支離滅裂、整合性のない経済音痴ぶりも救いがたいものである。