この終末論、日本では1973年に発刊された「ノストラダムスの大予言」がきっかけで広まることになる。
 著者の五島勉(バカ27号)は、ポルノ小説やオカルト本を出していただけの三流作家兼ルポライターであったが、この作品が一挙にベストセラーとなる。

 ノストラダムスは16世紀のフランスに存在した医師で占星術師。前記シュテフラ―のように晩年に好き勝手な予言を書き連ねて亡くなったらしい。
 ノストラダムスの「予言集」と呼ばれるものは、四行詩の形式を取り、曖昧かつ不明瞭な文言を書き連ねていたもので、ズバリ、「こういう事が起こる」と断定されたものは何もないものだった。
 これを好き勝手な解釈で、歴史上の重大事実に重ね合わせ、「ノストラダムスの予言はすべて的中している」という珍論が「ノストラダムスの大予言」だった。
 そもそも、五島勉に16世紀のフランス語を解釈する語学力などはなく、ノストラダムスの「予言集」の英訳本からの転訳による誤訳だらけであり、予言解釈本というよりも五島の「こじつけ論」だったわけだが、この本の最終章で「1999年7月、人類滅亡の日が来る」とやったわけである。

 「終末論」になじみのなかった当時の日本人は、これに不安と興味を示した。
 同じくこの時期にベストセラーとなったのは、小松左京氏の「日本沈没」である。これはSF小説であり、デマ系終末論と同列にするのは小松氏に対して失礼ではあるが、「不安と興味を煽った」という点では共通するものがある。

 もちろん、これを嘲笑い、否定する声もなかったわけではない。当時人気絶頂だったコンビ「あのねのね」は、「1999年7月にはどんな日が来るか」という問題の解答として、「嘘がバレる日」とした。これは痛快な利用の仕方であったが、後年、卑しい宗教家たちが、この「ノストラダムスの大予言」に群がり始める。