浪花ストレンジャーホテル8 | 注文の多い蕎麦店

注文の多い蕎麦店

人間は何を食べて命を繋いできたのか?
純粋に生きるための料理を実践し
自然に回帰することで
人間本来の生活を取り戻します。

この夜勤主任。
例えるなら鼠男が玉手箱を開けてしまった感じ(笑)

コツコツとこの腐れホテルで勤労に励み。
気づけばすでに何十年。
その間に培ったノウハウ。
皮肉を込めて言うと小銭稼ぎ。

あるタレントは小金稼ぎと言われて憤慨しましたが
彼にとって小銭稼ぎとは尊称そのもの。

ちょっとずつちょっとずつ。
爪に火を灯すように。
何十年もそうやってかき集めた小銭は
彼にマイホームというご褒美を与えました。

その小銭稼ぎのテクニック。
たそがれ清兵衛も真っ青の錬金術。

前述したように呼び込みのおばちゃんからの
100円チップ。
彼はそれを貯金箱には入れず自分の懐に。

更にですね。
曲がりなりにもここは一応ホテル。
チップなんぞを頂ける物好きな上客もおられまして。
もちろんそれも彼の懐に。

あとね。結構売上金誤差が出るんですよ。
釣銭間違いか何か知りませんが。
普通ありえないんですけどね。
でもね。彼の勤務時は一切誤差が無い。
素晴らしいですねえ。
さすが生真面目一本の鼠男(笑)
と思うでしょ?

でもね。実際はね。
かなり誤差が出るんですって。ほぼ毎日。
しかもプラス。
あとはもう言わずもがなという感じで。

こんな風にして1日500円チョロまかしたとして。
25日勤務で月12500円。
年間15万円。それを30年続けると・・・

なるほど家はこうやって建てるんですね。
って19、20歳で覚える技術じゃない(涙)

それがね。いつだったかなあ。
全部バレたんです。
社長夫人に。
もちろん内密者は・・・
あの正義漢(笑)

もちろん即刻クビ。
退職金も全てパア。

正義は必ず勝つ。
でもそんなに悪どいことでもなかったんですけどね。
人が寝る頃に動き出して
人が動き出す頃に眠りにつく。
そんな生活を30年以上黙々とこなしてきた儚い人生。

その唯一の楽しみは。
たった一人の無邪気な若者に踏みにじられたのでした。
もちろん彼のしたことは立派だと思います。
一切の不正を許さない潔癖さ。
紛れも無く王道です。

なんですけど・・・
もっと違う形の答えもあったんじゃないかなあ。
老人の自尊心も傷つけず
若者の矜持も保てるような。

まあ当時の僕にはその答えどころか
問題提起すら見えてなかったんですけどね。

続く。