タイ王国放浪記7 | 注文の多い蕎麦店

注文の多い蕎麦店

人間は何を食べて命を繋いできたのか?
純粋に生きるための料理を実践し
自然に回帰することで
人間本来の生活を取り戻します。

急浮上。
潜水では絶対に禁じられているルール。

まあ12mくらいの深度なら問題ありません。
ただし小さなミスが大きな事故を生むこともあります。
もしこれがさらに深い海底からだったら。
もし急浮上した先に船舶のスクリューが回転してたら。

潜っていた時間も重要です。
ボンベの酸素ばかり吸ってると窒素過多になります。
この体内窒素が急浮上とともに気泡化。
これがいわゆる減圧症。
潜水病の主たる要因です。

とにかく原因を追究せねば。

第一にウェイトの不適正。
ご存知のように海水には浮力がありまして。
人間が沈むにはある程度の錘が必要。
体重とボンベの重さを考慮してウェイトを選択するのです。
この錘がどうやら軽かったようで。

第二にエアの抜き忘れ。
海中で一定の深度を保つために
浮力調整するのですが。
どうやら空気を抜いたつもりが
管が折れ曲がって抜けていなかったようです。

この二つが重なって急浮上と。

しかも僕。
すっかり動揺してしまい。
上がったらすぐ急潜水したんです(苦笑)
さすがにこれは怒られました。

海底で浮力の調整が決まれば
あとの微調整は呼吸で行います。

息を吸えば浮き上がり
息を吐けば沈むと。
この感覚が妙におもしろい。
まさにゆらぎのリズム。

一度慣れてしまえば海の中は楽園。
色彩々の熱帯魚。
縄張りを侵すと攻撃してくるトリガーフィッシュ。
かますの一種バラクーダの嘴は正に剣。
鰹の群れはまるで巨大艦隊。
運がよければジンベエザメも見られるらしい。
まあもっと深いとこでですけど。

ただしこれは観光ではありません。
海底では様々な訓練が実施されます。

自由に回遊できる技術訓練はもちろん。
ボンベを一旦外し再装着する訓練。
呼吸器を外してバディの予備機器から酸素をもらう訓練。

そしてゴーグルを外して放り投げ拾いに行く訓練。
この訓練でちょっとした事件が起こりました。

あの相部屋のイケメン医者もどき。
ゴーグルを外した途端パニック状態に。

先生の落ち着けの合図も見えないようで。
眼前で手をひらひら。
そう。トラブル発生の合図。

もうあとは先生の制止も聞かず。
もがきながら急浮上です。

あとから聞いたのですが。
どうやらゴーグルを外して呼吸器だけで息ができないようで。
ゴーグルはもちろん鼻も覆います。
それを取り去ると鼻がむき出しになりますよね。
で、息を吸おうとすると鼻から海水が入ってくるらしいんです。
そこでパニックにと。

一度そういう意識になるともう駄目。
ここをクリアしないと次に進めません。

完璧主義インストラクター。特別授業の始まりです。
浅瀬の安全なところでひたすら訓練。

要は口だけで呼吸できればいいのです。
口で吸って鼻から出す。
地上では簡単なことですけど意外と海中では難しい。
しかも一旦脳にインプットされた恐怖はなかなか消えません。

シュノーケルに変えての訓練も功を奏せず。
結局彼脱落しました。
運動能力もあったし泳ぎもうまかったけど。
ただ口だけで呼吸ができないがために。

その辺が医学部出ながら医者になれない所以か。
技術はあるけど手術は怖いみたいな(苦笑)

彼。そのまま島出て行くかなと思ったんですけど。
最後まで残るって。
潜れはしないが最後までみんなと一緒に船に乗ると。

悔しかったと思いますよ。
自分だけできない。医学部出てるのに。
ほんと情けない。医学部出てるのに(笑)

どんなに格好悪くてもずっとみんなと一緒にいたい。
なんか分かるんですよねえ。
人嫌いの僕でも。
海に出るとね。海に潜るとね。
なんかそういう気になるんです。
運命共同体というか。
一応命掛かってるわけですし。

バディなんて特にそう。
簡単に言えば命を預けるわけです。
一匹子羊の僕にとってそれは辛い(笑)
お互い信頼してなければとても一緒に潜れません。

彼の脱退によって一つ問題が発生しました。
僕のバディ。
先生からあの元青年実業家へと。

続く。