左上は、北野天満宮  右上は、矢来能楽堂

左下は、観世能楽堂    右下は、義仲寺


能楽堂

はじめは

能楽堂というものを

ただ見てみたかった

そこに我が身を

置いてみたかった


最初に行ったのは

目黒の

喜多能楽堂

その日は格安の青年能

初体験にはもってこいだと

思ったのだった


 初の能楽鑑賞

そんな動機だから

事前の予習もあえてせずに

素の自分の感性を試すのだ

などと軽く臨んだのだった


能楽堂の作りは

厳かで見どころも多く

「これかあー」と感激


しかし肝心の演目が始まると、まず

お囃子の

意外なほどの甲高い掛け声に

不覚にも笑いが込み上げ

自分が情けなくなった


それをなんとかこらえると

次は

演者の動きの少なさに

退屈になるのと同時に

雨霰のような音量に

強い睡魔に襲われた


「こりゃ私には無理だわ」


演者からも見えるだろうと

バツの悪い思いとは裏腹に

どうにもこうにも

抗いきれず

ほとんどの時間を眠ってしまった


終演近く我に帰り

猩猩の

絢爛豪華な装束と

勇壮な舞に

「これだけ観られただけでもいいか」

と気を取り直し


驚くほどの長時間

まばたきもしていないのではと

思うほどの

一糸乱れぬ正座で

謡を勤めた8人の男性のすべてが

掛け声もないのに

一斉に向きを変えて立ち上がり

切戸口へ消えていった

「これが伝統芸能なのかあ」

と感心したのだった


帰り道、ぞろぞろと駅へ向かう

観客には若い人が多く

その人たちへも

恥ずかしさでいっぱいになりながら

もちろん

演者の皆さんに対しても

ごめんなさいと

心の中でひたすら詫び

打ちひしがれた


あまりにもお気楽に

予習をしなかったせいだと

激しく後悔した


 ​リベンジ!

翌日から

能楽についてのYouTubeを検索し


2度と笑いが込み上げないように

まずお囃子と謡に耳馴染む

それから

能楽師の解説チャンネルを

貪るように見た

それは

とても楽しく豊かな時間となり

今も続いている


能楽師さんのお一人が

鑑賞で眠くなってもいいんです!

と笑顔で言ってくれたから


気を取り直して

「やっぱり国立能楽堂は

押さえておかなきゃね」と


事前の予習をして

国立能楽堂へ


初回よりははるかに改善!

わかって観ると

違うものだな


しかしやはり所々

眠りに落ちる


まだまだ準備と勉強が足らない


 ​出逢いは声!

3回観てだめなら

能楽鑑賞は背伸びの体験ということで

終わりにしようと

出掛けた矢来能楽堂


演目は「通盛」

なんと運のいいことに

当日券で正面席に!


なのにやはり

船を漕いでしまっていた


後半も終盤

まどろみの中でハッと

耳に残るシテの謡

「あれ?!こんな声の人いるの?」

これまでYouTubeで

聞いてきた

どちらかといえば野太い声と違う!

痩せ型の骨格の方と予想し

勝手な妄想が広がった

雷に打たれた感じとは

このことか!

初めて舞台の演者に釘付けになった


帰り道は興奮状態

すぐにドトールに飛び込み

演目のチラシを元に

検索しまくった


この日を境に

私の能楽のめり込み生活が

始まったのだった


つづく