御殿場線 | 東四ヶ一の庄

東四ヶ一の庄

実家を離れて40数年。もう帰ることはないだろうと
思っていたこのまちに戻ってきました。
「東四ヶ一の庄」とは、私の愛読書『ホビットの冒険』
『指輪物語』の主人公の家があるところです。

茨城に住んでいたときの友人が、御殿場市に来るというので会いに行った。結婚した娘さんが御殿場に住んでいて、そこに滞在するとのこと。

 

御殿場までは、御殿場線というJRの路線を使う。御殿場線は沼津と国府津の間を走り、東海道線に接続している。

 

私は、この御殿場線がとても好きで、茨城からの帰省の往復で、新幹線を使わず御殿場線と東海道線に乗ることがときどきあった。

 

両方のターミナル駅からいくつか先まではまあまあ普通の街並みだけれど、少しずつ山の風景になっていく。窓から景色を見ているだけで飽きない。山の風景に突然川が現れる。岩のごろごろした瀬と急な流れの、あまり大きくない川だ。コンクリートの護岸工事もしていない。

ベンチシートの車両もあるけれど、ボックスシートで窓枠にひじをついてぼーっと景色を見ているのが好きだ。

 

茨城にいたときは、水戸と郡山を結ぶ水郡線が好きだった。御殿場線のように窓から見える川と山の景色が美しい。郡山まで行ったことはないけれど、これで大子町の袋田の滝に行った。福島県矢祭町まで(意味なく)行ったこともあった。(矢祭町には、寄贈本のみで運営している「矢祭もったいない図書館」がある)

 

御殿場線で、2回(別々のときに)「この人は、いわゆる『鉄ちゃん』だな」と思う人に出会った。ひとりは分厚い時刻表を小脇にはさみ、もうひとりは棒の先につけたマイクとカメラを持っていた。

そして、ひとりはジャムパンとフルーツ牛乳、もうひとりはあんパンとコーヒー牛乳を持っていた。

 

たった二人ではなんともわからないけれど、鉄道の好きな人は菓子パンと甘い飲み物が好き、という傾向はあるのだろうか。

 

御殿場のひとつ手前、南御殿場まで来ると、左側の窓いっぱい(と思うほど大きく)富士山が見える。はずなのに、昨日はあいにく雲がかかっていて見えなかった。

 

御殿場駅。御殿場線に乗って30分あまりで着く。

御殿場駅富士山口。線路の向こうの建物が富士山している。

もちろん、雲がなければ本物の富士山がどーんと見える。

 

駅で友人と待ち合わせをして、まず昼食を食べに行った。

冷やしとろろ蕎麦。天気がよく(富士山方面には雲だけど)、暑いくらいだったので美味しかった。

 

小さな水路がたくさんある。三島市や清水町のように、富士山の雪解け水なのだろう。水のある風景はいい。涼しげなのはもちろんいいけれど、私は冬の水辺も好きだ。

御殿場駅周辺に何があるのか私はよく知らず(当然友人も地元は茨城なので知らず)その辺を散歩し、ゆっくり本屋を楽しみ(店には迷惑)、コメダ珈琲で一休み。

コーヒーゼリー。下にあるのはバナナ。ソフトクリームと赤いサクランボ、ガラスの入れ物などなんとなく懐かしい感じ。

 

このごろでは、古臭いこと、昔風のことを「昭和」と言うらしい。

ネットでも、男尊女卑めいた行動や家父長制度などに対して「昭和か!」と突っ込む人がいる。SDGsに関連して魚も野菜も新聞紙でくるんで買い物かごへ、というサザエさんのようなやり方を「昭和」と言ったりする。「懐かしい」が「昔風」なら、これは昭和風コーヒーゼリーかもしれない。

 

帰るとき駅前で友人が教えてくれた御殿場市のマンホール。

御殿場線は、電化前にはD52が走っていたのだそうだ。

 

引っ越しのために行き来していたとき、高速でなく一般道を使うことがあった。茨城県を出て東京から国道246で厚木、伊勢原、秦野を通り、松田町のあたりに来ると、246と御殿場線のコースが隣り合うことが多くなる。私たちは渋滞を避けて夜中に移動していて、たいていいつも、もうすぐ静岡県というあたりで夜明けを迎えることになった。

 

明るくなりはじめた246沿いを歩く人がいた。

何度か見かけたけれど、同じ人だったはずだ。追い越す方向だったから顔をよく見たわけではないけれど、いつも背中に同じゼッケンをつけていた。5、60代と見える細身の男性だった。

「辺野古基地移転反対」

ゼッケンにはそう書かれていた。

 

何年も前のこと、沖縄出身の高校生の話を聞いた。

「基地のことを話すと、こっちの友だちは『沖縄は大変ね』と言う。米軍基地は、日本ではなく沖縄の問題だと思っているようだ」と言っていた。

沖縄だけの問題ならば、沖縄の民意が一番に尊重されていいはずなのだけれど。

 

あの男性がどうして夜明けの道をゼッケンをつけて歩いているのかはわからない。でも彼は「大変ね」と言うだけで終わらせてはいない。

 

ゼッケンの男性を追い越して(窓を開けて手を振りたいと思った。けれど何もしなかった)しばらく246を行くと、道路と酒匂川に挟まれて御殿場線の架線が見える。山北の駅が道から見える。御殿場線の始発を待つ人たちがホームに立っていた。

 

夕方家に帰った。今朝まで蕾だったなぞの花が咲いていた。日中の暖かさに蕾がほどけたのだろう。シャクヤク、かな?