そばにいて クリスマス編 14

 

 

 

 6.クリスマスの夜に 2

 

 

 

 

  真澄ちゃんはあの後、何も言わない。どうして突然優花の前に

 現れたのかも教えてくれないままだ。

  どんどん市民会館から離れて行き、このまま大通りを南に歩いて

 行くと駅に着いてしまう。

 「ねえ、真澄ちゃん……」

  優花はどうしても彼が今ここにいる理由が知りたくて、沈黙を

 破ってしまった。

 「どうして真澄ちゃんが今ここにいるの? 今日は来れないって

 そう言ったよね? 」

  正真正銘本物の真澄ちゃんに向かって、一番知りたいことを

 ストレートに訊ねる。でも彼は何も答えてはくれず、立ち止まった

 優花の手をしっかりとつないだまま、再び歩き始める。

 「真澄ちゃん、お願い。教えて欲しい。どうしてここに……」

 「会いたかった。ゆうにどうしても会いたかったから」

  優花の質問をさえぎって、そっけなくそれだけ話す。

  そして、優花の額を人差し指でつんと抑えた彼は、いつもの

 ほわっとした笑顔を浮かべ、つないでいた手を離したかと思うと

 その手で肩を抱き寄せた。

  その瞬間、彼の首に巻かれた見覚えのあるマフラーが外れて

 ぱらっと優花の目の前に下りてくる。ありえないほどにドキドキと

 心臓が鳴る。こんなに近くに彼を感じて、とても温かくて。

 もうどうにかなってしまいそうだった。

 歩くたびに頬をかすめる彼のジャケットから、以前駅で抱きしめ

 られた時と同じ匂いがした。彼の香りだ。

  ゆうにどうしても会いたかったから……。確かに真澄ちゃんが

 そう言った。夢でもまぼろしでもない。信じられないことだけど

 たった今、彼自身がそう言ったのだ。

  優花も彼に会いたかった。寂しくて。切なくて。毎晩泣いてしまう

 くらい真澄ちゃんに会いたかった。

  今こうやって肩を包み込んでいるのは、間違いなく夢にまでみた

 彼の強くてたくましい腕だ。

  肩を抱かれたまま、ゆっくりと駅に向かって歩く。

  次第に人通りが多くなり、あちらにもこちらにも幸せそうな二人連れ

 が腕を組み、肩を寄せ合って歩いていた。

  駅前の広場には、周りのビルの高さに負けないほどの大きな

 クリスマスツリーが設置され、幻想的な光を放っていた。

  昼間に見た時は、大きな木にワイヤーが巻きつけられているだけの

 単純な物にしか思えなかったのに、夜にはこんなにもきれいに街を

 彩り、人々を魅了している。

  優花は目の前に繰り広げられている光の魔術にすっかり惹きこま

 れてしまった。

  彼の腕に寄りかかり、まばゆいばかりのツリーを見上げる。

 「わあ、きれい……」

  周りの誰もが感嘆の言葉を漏らしている。

  彼が急にやって来た理由はまだ何も知らされていないが、こうやって

 一緒にツリーを見ていられることが、何よりの答えなのかもしれない。

  待ち焦がれていた彼と、同じ場所で、同じ空気を吸いながら、同じ時 

 を過ごしている。それでもう充分じゃないかと優花は自分自身に言い

 聞かせた。

 「今日、学校に行っている間に届いたマフラー。嬉しかったよ。ゆうが

 選んでくれたんだと思うと、なんか泣きそうだった。なあ、ゆう。俺が

 どれだけおまえに会いたかったか、わかるか? 」

  真澄ちゃんの声がふいに優花の頭上に降り注ぐ。と同時に、肩を

 抱いていた手を離し、向き合う形になった。

  青と白のまばゆい光を放つツリーを背にした真澄ちゃんの顔は

 逆光になっていてよく見えない。優花を正面から見下ろす彼が

 いったいどんな表情をしているのか知りたくて、目を凝らしてじっと

 見つめてみる。

  すると。

  次の瞬間、彼に少し乱暴に抱きしめられて、上向き加減になった

 優花の目には、ツリーの先端と夜空だけしか見えなくなった。

  そして、それすらも黒い影で覆われてしまい、いつの間にか彼の

 顔が優花のすぐ近くに重なって……。

 

  それはあまりにも突然だった。

  心の準備も何も出来ていない優花に甘く静かに襲いかかる。

  重なったくちびるが、少し冷たくて。

  でも柔らかいそれは、確かに彼のものだった。

 

 

 

 

  次回、最終話になります。

 

 

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