そばにいて クリスマス編 12

 

 

 

 5.それは偶然じゃなくて…… 2

 

 

 

 

  ところがクッキーを取り囲む人の輪は次第に大きくなってゆき

 前後左右を見渡しても、ここから抜け出す道はどこにも見つから

 ない。

 「あらあ、かわいいカノジョさん。クッキーにもこんなカノジョが

 いたんだ。どうりで今日、張り切っていたわけだ」

 「羽田部長、違いますって。彼女は、その、家の近所の友だちで」

 「え?? うそー。そんなことないでしょ? クッキー、よかったね。

 カノジョが来てくれて」

  今度はボーイッシュな感じの羽田部長という人が、クッキーの

 背中をポンと威勢よく叩いた。

 「だから違うんです。お願いです、これ以上からかうのはよして

 下さい。彼女も困ってるし」

  クッキーはしきりに照れ笑いを浮かべ、トランペットを持った手で

 器用に頭をポリポリとかいた。

 「さあ、みんな。もうひとがんばりお願いね! 」

  どこかカッコいい立ち居振る舞いの羽田部長が、手に持った

 サックスを振りかざし、声を張り上げた。

 「ゆうちゃん、何度も悪いけど。この後、ステージの片づけがある

 んだ。すぐに終わるから、それまでここで待っててくれる? 一緒に

 帰ろうよ」

 「でも、わたし……」

  さっきから居たたまれないことこの上ない状況に置かれている

 優花はすぐにでもここから逃げ帰りたいのに、クッキーはまだ待って

 くれと言う。どうして彼と一緒に帰る必要があるのだろう。もう充分

 に義理は果たしたはずだ。

 「ゆうちゃん、もしかして、何か用事でもあるの? 」

  クッキーが不思議そうに優花をのぞき込む。

 「用事とかは、ないけど。ただ、クッキーは部活の仲間と一緒に帰る

 んじゃないのかなって、そう思って……」

 「それはないって。だってほら、うちの高校は私学だろ? みんな

 遠くから通ってるから、帰る方向もバラバラだし。だから問題なし。

 それにどうせ俺たちは同じところに帰るんだし。ちゃんと家まで送り

 届けるよ。だから絶対に待てて。じゃあ言ってくる」

 「あ、いや、待って! クッキー、待ってよ!」

  優花の声がクッキーに届くことはなく、仲間たちと共にホール内に

 消えていった。

  ポツンと一人、ロビーに取り残される。本当にこのままここで待つ

 べきなのだろうか。そしてその後、クッキーと一緒に帰って、それで。

  優花はもう何も考えられなくなっていた。いったい自分に何が起こって

 いるのか、それすらもわからない。

  でもさっき彼が言っていたように、帰るところは同じマンションなのだ。

  別々に帰ったとしても、バスで顔を合わせてしまうのは避けられない。

  じわじわと押し寄せてくる不安で胸が苦しくなる。勇人君や絵里が

 言ったことを真剣に受け止めるべきだったと今ごろになって後悔し始め

 ていた。

 「ゆうちゃん! お待たせ! 」

  制服に着替え、大荷物を持ったクッキーが、息を弾ませて駆け寄って

 来た。

 「クッキー……」

  意気揚々と現れたクッキーとは反対に、優花の声は弱弱しく、今にも

 消えてしまいそうだ。

 「ゆうちゃん、どうした? なんか元気ないような……」

 「そんなこと、ないけど」

 「もしかして、腹減った? 俺、実はさ、もうペコペコなんだ。午前中から

 ずっとリハーサルやってたし、楽器吹いてると、ハンパなく腹が減る。

 そうだ、この近くで何か食っていかないか? 」

  クッキーが手で胃の辺りを押さえ、空腹をアピールして、よたよたと

 歩いて見せる。でも優花はそんな彼に同調することはなかった。

 「ごめんね、クッキー。わたし、もう帰らなくちゃ。その。妹が一人で

 留守番してるし」

  悪いと思いつつも、一人で待っている愛花を理由に断る。もちろん

 中三にもなった妹が寂しがっているはずはない。が、しかし、ここは

 妹の名を借りて、うまく帰る方向に持って行くのが筋というものだろう。

  優花がクリスマスの夜に一緒に過ごしたい人は、クッキーではない 

 のだから。

 「そっか、ダメか。愛ちゃんのために、帰ってしまうんだ……。でも

 ちょっとくらいならいいだろ? この先すぐのところにファミレスが

 あるし。そこで何か食べようよ。そんなに時間は取らせないから。

 俺、ゆうちゃんに話したいことが……」

  だんだんと優花の意図しない方向に流れて行くのがわかる。目の

 前の人物が昔からよく知っている人だけに、冷たくあしらえない自分が

 もどかしい。

 「ホントにごめんね。で、でもクッキーの今日の演奏、とてもよかったよ。

 すっごく上手だった」

 「ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しいよ。ねえ、ゆうちゃん。今日

 君に来てもらったのには、その、理由があって」

  クッキーが何かを言いながら歩き始めた。もう優花にはそんなことは

 どうでもよかった。とにかく早く帰りたい。これ以上クッキーの話を聞い

 てはいけないと、本能が優花の心をシャットアウトするのだ。

 「ずっと、どうしようって、悩んでいたんだ。だから今日こそは……って

 おい。どうしたんだ? 」

  最初は横に並んで歩いていたけれど、途中で立ち止まり、いつしか

 彼との間に距離ができてしまっていた。

 「そんなところに立っていないで。さあ、行こうよ」

 「あ、もうわたしのことは気にしないで。クッキー、じゃあここで。

 愛花にプレゼント買って帰るから、別々に帰ろう」

 「何言ってるんだよ。そういうわけにはいかない。ゆうちゃんを一人に

 はできないよ。じゃあ、もうファミレスには行かないから。だから」

  彼の目がじっと優花の視線を捉える。

 「なあ、ゆうちゃん。この前の朝、俺と会った時のことだけど」

 「うん……」

 「あれ、偶然でも何でもないんだ。俺、実は、ゆうちゃんのこと……」

  一歩、また一歩とクッキーが距離を縮めてくる。そして手を伸ばせば

 届くところまで来た時、彼の肩越しにこっちに向かって走ってくる人物に

 釘付けになる。

  カーキー色のジャケットを着て、紺色のスニーカーをはいて。

  力強く地面を蹴って駆けてくるその人に。

 「えっ? う、うそ……」

  優花は目を丸くして、両手で口元を覆った。

  彼女の異変に気付いたクッキーが振り返り、優花の視線の先に目を

 向けた。そして……。

  

 

 

 

 

 

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