そばにいて クリスマス編 9
4.忠告 1
「はやと君、あのね。その人は……クッキー……なんだ」
優花は勇人君の目つきが険しくなるのを見逃さなかった。
「クッキー? やっぱりね。なんでゆうちゃんが久木のコンサートに
行くの? ゆうちゃんと久木がそんなに親しい仲だったなんて
僕は今日まで知らなかったな。どう考えたっておかしいよ。だって
ゆうちゃんは真澄のカノジョなんだろ? なんで違う男とクリスマス
を過ごさなきゃならないんだ? 絶対に間違ってる! 」
一刀両断だ。ものの見事にスパッと切られた。そんな風に言わ
れるのがわかっていたからこそ、このことを誰にも知られたくなか
ったのかもしれない。
「ねえ、はやと君、聞いてくれる? あの、あたし、まだ真澄ちゃん
のカノジョだと決まったわけじゃないし。それに、クッキーのコン
サートだって、呼ばなきゃいけない十人のうちの一人として、人数
合わせで誘われただけだもん」
優花は必死になって潔白であることを説明して理解を求めるの
だが、相手は思った以上に手ごわい。
「ゆうちゃん、いいかい? 真澄はあのとおり無口だし、自分の
気持ちをうまく言葉で伝えられないタイプだと思う。でもさ、ゆうちゃん
のこと、とても大事に思っているのは間違いないよ。そりゃあ、今日
こっちに来なかったのはアウトだよ。僕だって久しぶりに会えるのを
楽しみにしていたんだからね。でもだからと言って、クッキーの誘い
にホイホイのるなんて、ゆうちゃんらしくないよ」
すると絵里も便乗して口を挟んでくる。
「そうだよ。鳴崎の言う通りだってば。ねえ、優花。そのクッキーって
子。なんか下心みえみえって感じがするんだけど。同級生ってことは
吉永も知ってる人なんだよね? 」
「うん……」
下心がみえみえだなんて。あまりにもショッキングな絵里の発言に
優花はがっくりとうな垂れる。
「だったら余計にダメだよ。吉永がこのことを知ったら、暴れるよ! 」
絵里の言いたいことはわかる。しかし、優花が連絡を取らなくても
気にならない人が、クッキーのコンサートに行ったくらいで取り乱す
とは思えない。
優花は、クッキーにも、そしてもちろん自分にも、コンサートを楽しむ
以外の理由は何も存在しないと訴え続ける。
「ねえ、二人ともよく聞いて。さっきも言ったけど、わたしはクッキーに
とってはただのお客さんの一人で、他に九人もいるんだってば。真澄
ちゃんにも、そ、その、コンサートのことは、ちゃんと報告するつもり
だし……」
「ウソ! 報告するつもりなんてないくせに。だって優花ったら、あたし
たちにも内緒でこそこそとコンサートに行こうとしたんだよ。優花だって
心のどこかで、これはマズイって思ってたよね」
「絵里……」
絵里にすべてを見抜かれている優花には、わずかたりとも反論の
余地は残っていない。
「それに」
今度は勇人君が追い打ちをかけてくる。
「さっきからずっと気になってるんだけど。その十人のうちの一人って
なに? 」
探求心のかたまりのような勇人君は、納得するまで優花を質問攻め
にするつもりらしい。
「それは……。その、言葉通りの意味だけど。つまりね、部員がそれ
ぞれに観客を集める手はずになってて、クッキーが十人を勧誘する
よう任されているって話で。せっかくのコンサートだもん。会場が満席
になった方がいいし、協力してあげようって……」
優花は何の疑いもなくそう信じて、クッキーの話を受け止めていた。
ところが勇人君はまだ首を縦に振ろうとはしない。
「あのさ、ゆうちゃん。久木の行ってる高校の吹奏楽部はね、コンクール
で全国大会に出場。その上、優勝もしちゃうような、そんな強豪校なんだ。
日本中にファンがいるんだよ。動画サイトでもすごい登録者数になってる。
で、定期演奏会も、学園祭も、外部での催しものも。前売りチケットは即
売り切れ。そのクリスマスコンサートだって、久木や他の部員が走り回ら
なくても、すでに客は埋まってるはずなんだけど……」
「ええっ? そうなんだ……」
優花は初めて聞くクッキーの吹奏楽部の現状に驚きの声を上げ
大きく目を見開いた。
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