そばにいて クリスマス編 8
3.同級生 3
「さあーてと、この続きは。今からあたしんちに行って、けーきよく
パーッとやろうよ。うひゃーーっ! 今、ケーキ食べながら、景気
よくだって。あたしいつの間にオヤジギャグなんか言うようになった
のかな。えへへへ」
どこまでも暗くて陰気な空気を引きずり続けている勇人君と
好きな人にクリスマスの約束をすっぽかされた優花を気遣って
わざと明るく振る舞ってオヤジギャグまで飛ばす絵里には心苦しい
ことこの上ないのだが。
ここできちんと絵里の家には行けないと伝えなければいけない。
優花は食べている途中のミルフィーユの横にフォークをそっと置き
紅茶を一口飲んだ。そして……。
「絵里、ごめん。今日はその……」
ミルフィーユの断面を見つめながら、恐る恐る話を切り出す。
「どうしたの? 」
絵里と勇人君が声をそろえて優花に訊ねる。
「いや、そ、その……。実は」
「うん、だからナニ? 」
頭上に注がれる絵里の視線が痛い。ミルフィーユを眺めている場合
ではないのだが顔を上げて彼女を見る勇気など、今の優花にはこれ
っぽっちも備わっているはずがなく。
「あ、あのね。このあと、ちょっと、用があって、絵里んちには……」
「行けない、って言うの? まさかね、そんなことないよね。って、え?
その、まさかなの? 優花、ねえ、どうなのよ! 」
絵里が身を乗り出して責め始める。
「おい、ゆうちゃん。いったいどうしたのさ? まさかとは思うけど
真澄が来ないからって、自暴自棄になるなんて、許さないよ。今日の
ゆうちゃん、なんだか僕以上に落ち込んでる気がする。ニコニコしな
がらも、映画にちっとも身が入ってなかったし。そうだろ? 」
勇人君も容赦なく攻め込んでくる。
優花は二人の想像を超えた気迫におののき、もうこれ以上あのこと
は隠し通せないと降参の白旗を揚げた。
「あの、それが……。今まで言ってなくてごめんなさい」
「え? なに? 何かあたしに言えないことでもあるの? 優花らしく
ないよね」
「早く言わなきゃ、って思いながら、なかなか言えなくて。実は今から
コンサートに……行くの」
とうとう言ってしまった。
「ふーん。それで? 別に隠すことでも何でもないと思うけど。って
ことは。他に何か言いにくいことがあるってことよね? 」
「いや、そういうわけじゃなくて。ただ、せっかくの絵里の誘いを
断るのが心苦しくて……」
「そっか。でもお母さんや愛花ちゃんと一緒に行くのなら、あたしだって
無理は言わないよ。家族のおでかけは大事だよ? 」
「ありがと……でも」
「はいはい、それで? 」
「家族とじゃないんだ……」
「……って、じゃあ、誰と? そりゃあさ、あたしたち以外の友人だって
いるだろうし、優花の私生活にとやかく言う筋合いはないよ。けどさ。
なんか、今の優花変だし。ちゃんと理由も言えないようなあたしたちの
関係って、寂しいよ。あたし、そんなに強引だった? 行けないなら
行けないって遠慮しないでちゃんと言ってよ。それを今の今まで何も
言ってくれないなんて、ちょっと心が折れちゃいそう」
「絵里、ごめん。あのね、誰とも一緒じゃないんだ。一人で行くの」
そうだ。嘘じゃない。クッキーに誘われはしたけれど、会場に行く
のは一人だ。
「ホントに一人で? なんか怪しい……。優花、ちゃんとこっちを見て。
何のコンサートなの? そんなの初めて聞くし。ねえ、優花。本当の
こと、教えて。隠し事はなしだよ。それとも鳴崎がいると話しにくい? 」
「ええ? 僕のせい? そうだよな、女の子同士でしか分かり合えない
こともあるだろうし。じゃあ、僕はこの辺で……」
「あ、はやと君。待って。違うの。はやと君がいるからとかじゃないの」
「じゃあ、何なの? 」
絵里の誘導尋問は天下一品だ。優花は瞬く間に丸裸にされてしまう。
「あ、あの……。クリスマスコンサートなんだ。中学の時の同級生が
入ってる部活のコンサートで……」
「部活って、ブラバン? 中学の同級生の? 」
絵里が不思議そうに首を傾げる。
「うん。そうだよ。吹奏楽部の……」
これ以上詳しくは訊かないで、とすがるような視線を絵里に送り
ながら優花はぎこちなく、こくりとうなずいた。
「中学の同級生か……って、それって、僕も知ってる人だよね? 誰?
何人か心当たりがあるけど、コンサートまでするってことは……」
勇人君はもうすでにそれが誰であるのか気付いているような目をして
優花を問いただす。
もう逃げられない。
優花は観念して、円卓に座る目の前の二人と、真正面から向き合う
ことにした。
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