そばにいて クリスマス編 7

 

 

 

 3.同級生 2

 

 

 

 

  そして、優花が何も連絡を取らなかったこの数日間のことも別段

 何も咎められることはなかった。

  それは言い換えれば、優花のことなど何も気に留めていないと

 言われているようなものだ。理由を訊いても不明瞭な返事しか

 返って来ないし、優花の連絡を待っている様子もない。

  真澄ちゃんを駅まで追いかけて行ったあの日。確かに二人の心が

 つながったように感じたのは優花の思い過ごしだったのだろうか。

  こんなこと、考えたくもないけれど。まさか、そんなことがあるはず

 ないと、思いたいけれど。転校した高校に好きな人が出来たのだと

 したら……。あるいは、彼を一目見て恋に落ちた誰かが彼に告白

 して、彼の気持ちがその見知らぬ誰かに動いてしまったのだと

 したら……。

  優花は短い会話の後、じゃあまたね、と言って電話を切り、制服の

 スカートのままベッドにもぐり込んだ。とめどなくあふれてくる涙と共に

 過ごしたクリスマスイブは、とてつもなく長くて、辛い夜になった。

 

  今日から冬休みだ。絵里と駅前のショッピングモールに行って

 映画を観る約束をしている。絵里が好きなアイドルグループの一人

 が主演をしているその映画は、ベストセラーを続けている青春小説

 を映像化したもので、優花もずっと気になっていた作品だ。昨夜の涙

 も今日はひとまず返上して、楽しんで来ようと気持ちを入れ替える。

  せっかくのクリスマスに仲良しの女子同士でデートだなんて、ホント

 笑っちゃうよね、と言いながらも、優花は心の底から前向きな気分に

 なったわけではなかった。

  絵里は映画が終わったら家に来ない、と誘ってくれているのだ。

  お姉さんの彼氏も来るので、一緒にパーティーをしようと、優花の

 返事も待たないうちからすっかりその気になっている。

  今日は十二月二十五日。本当なら真澄ちゃんと会って、プレゼントを

 渡して、そして、もしかしたらデートらしきことも出来たかもしれない

 クリスマスだ。

  絵里にはまだ知らせていないが、映画の後、クッキーの吹奏楽部の

 コンサートに行くつもりにしている。別にこそこそと内緒にしている

 つもりはないのに、なぜか言い出しにくくて、何も言えないまま、ずるずる

 と今日を迎えてしまったのだ。

  急用が出来たから先に帰るね、と言ってさりげなく午後のパーティーを

 断ればいいなどと安易に考えていた優花は、映画館での待ち合わせ

 場所で絵里に会ったとたん、それがとんでもない間違いだったと気付か

 される。

  ロビーにひょっこりと姿を現したその人に、優花は腰を抜かすほど

 びっくりさせられることになった。

 「よおっ……」

  力なく右手を上げるその人に慌てて駆け寄った。

 「な、な、な、なんで? どうして、はやと君がここにいるの? 」

  優花はその人に詰め寄った。

 「ま、まあな。いろいろと。その……」

  勇人君が優花から目を逸らし、照れくさそうに首の後ろをぽりぽりと

 掻いている。

 「へへへへ。びっくりしたでしょ? 実はね、昨日から鳴崎も誘っていたん

 だけど、優花には内緒にしてたんだ。だって、優花の驚く顔が見たかった

 んだもん! 」

  絵里のいたずらっぽい目がキラリと光る。それにしても内緒にするなんて

 絵里も相当ヒトが悪い。勇人君が来るとわかっていれば、こんなところに

 のこのことやって来なかったのにと悔やまれる。

  これは、もしかして、もしかするのではないかと、優花は目の前の二人を

 見て、あれこれ妄想してしまうのだ。

  クリスマスに誘い合って約束している男女と言えば、やっぱりあれしか

 思い浮かばない。そう。この二人は付き合い始めたのではないかと。

  優花は願ったり叶ったりの急展開に頬の筋肉が緩み、ニタニタしてしまう

 自分を止められなくなった。が、しかし。優花のそんなよこしまな推測は

 あっという間に砕け散ってしまう。勇人君がここにいるのにはちゃんとした

 わけがあった。つまり優花と同じ状況に陥った不幸仲間、ということらしい。

  クリスマスイブだった昨日、勇人君は彼の想い人である麻美にプレゼント

 を渡すため、絵里の力を借りていたのだが……。

  麻美は終業式が終わってすぐに、隣町にある大手予備校の大学受験

 集中講座を受ける予定になっていて、勇人君と絵里がしくんだ、壮大にして

 命がけのクリスマスプロジェクトが瞬く間に未完のまま結末を迎えてしまった

 というわけだ。それで告白はもちろんのこと、プレゼントすら渡せず、激しく

 落ち込んでいる勇人君を救済するため、今日の映画に誘ったのだと

 絵里が二ヒヒと笑いながら説明する。

  確かに今日の勇人君は、映画を観ている間もずっと無口でムスッとして

 いた。麻美の件だけでなく、泊りに来る予定だった真澄ちゃんにも約束を

 取り消されているので、不機嫌さも倍増しているのだ。なんと真澄ちゃんは

 勇人君にも、キャンセルの理由を説明していないらしく、もうあいつは友だち

 じゃない、とまで断言している。

  今年のクリスマスは踏んだり蹴ったりだったと、映画の後に行ったケーキ

 ショップで、ショートケーキをフォークでハチの巣状に突きながら、勇人君が

 しきりにぼやいていた。

 

 

 

 

 

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