そばにいて クリスマス編 6
3.同級生 1
「何よ、それ! なんであいつ、こっちに来ないの? そんなのおかしい。
ありえないって! 」
絵里は頭のてっぺんから湯気を出してるんじゃないかと思えるくらい
顔を真っ赤にして、怒り狂っている。真澄ちゃんからの寂しいラインに
ついて相談したとたん、このありさまだ。
「吉永が自分からクリスマスにこっちに来るって言ったんでしょ?
なのにどうして急に来ないってなるわけ? 絶対に変だよ。ちゃんと
理由を訊いた方がいいと思うっ! 」
教室にはすでに何人か登校してきている人がいるので、あくまでも
基本はひそひそ声で。でも感情のおもむくままに突然ボリュームアップ
する絵里の声に優花はさっきからハラハラさせられっぱなしだ。
「それはそうなんだけど。多分、家の手伝いがあるから来れなくなった
んだと思うんだ。ぶどう園の仕事、すっごく大変そうなんだもん」
「ええっ? なんで大変なのかさっぱりわかんない。だってぶどうなんて
夏の終わりに、プチって実をもぎ取ればいいだけでしょ? 今は12月
だよ。もうどこにもぶどうはぶら下がってないいてば。ねえねえ
吉永ってさあ、本当にぶどう畑の手伝いが理由で来ないの? 」
「う、うん。本当だと……思う。おじいさんが収穫後の手入れをしない
うちに倒れちゃったから、真澄ちゃんとおじさんとおばさんが広大な
ぶどう畑で木にわらを巻いたり、肥料を……」
「わら? 肥料? なんだかよくわかんないけどさ。じゃあさ、忙しいって
最初からわかってるなら、クリスマスに来るなんて優花を期待させる
ようなこと、言わないでほしい。優花がどれだけ楽しみにしていたか
あいつは何もわかっちゃいないのよ。ちょっとスマホ貸して。あたしが
変わりに理由を聞いてあげるからさ」
絵里の強引さに拍車がかかる。
「だ、大丈夫だって。いいの。もうちょっとしたら、何か連絡くれるかも
しれないし。それまで待ってみる」
優花はスマホを奪われないようにカバンを膝の上で抱え込む。
「んもう、優花ったらホントのん気なんだから。来年のクリスマスまで
待ち続けるってことにならないようにね。まあ、生真面目なあいつの
ことだから、浮気はないと思うけど……」
「う、浮気? 」
優花の全身から、さーっと血の気が引いていく。
うわき……。そのことも何度か頭の中をよぎったのは事実だが、極力
考えないようにしていた。
だが、絵里の口から浮気という言葉が出たとたん、優花は喉がから
からになるほど、ダメージを受けてしまったのだ。
「やだー。優花ったら、マジになってる。だから、浮気の心配はないって
言ってるんだけど? 」
「あっ、うん。でも、わたしたち、その。付き合ってるわけじゃないし、別に
誰と仲良くなったとしても、浮気とかにならないと……」
そう思うことで、ショックを和らげようとしたのだが、ますます優花の
心は不安でいっぱいなる。
「優花あ。どうして、そんなに弱気になってるの? だからいつも言ってる
でしょ? あんたたちは誰がなんと言っても、正真正銘、恋人同士なんだ
からさ。そこは自信を持って。だからこそ、初めてのクリスマスに約束を
破るってのが許せないの! 家の手伝いだかなんだか知らないけど
優花との約束以上に大切なものがあるってのが信じられないんだって」
絵里の言う通り、浮気でないとすると……。理由はやはり家のこと
なのだろう。おじいさんの病状も関係しているのかもしれない。
なかなか真澄ちゃんに連絡を取ろうとしない優花に、絵里は学校に
いる間中、不満そうだった。けれど優花は、そんな絵里の心配をよそに
彼を信じて連絡が来るのをもうしばらく待ってみようと決めたのだ。
ところが……。
待てど暮らせど彼からは何も連絡がなかった。せっかくのラインも
機能しないまま、画面の下の方に沈んで行く。時ばかりがむなしく
過ぎて行き、優花の心にはぽっかりと穴があいたままだ。あの日の
メッセージを最後に、結局何も連絡を取り合わないまま、クリスマス
イブを迎えることになってしまった。
寂しさと不安の限界を超えてしまった優花は、イブの夜、彼に電話を
かけた。
久しぶりに聞くその声はいつもと変わりなく低く落ち着いていて、心地
よい響きを届けてくれる。
ところが返って来た返事は、以前のメッセージと一字一句違わなくて
ごめん、明日は行けない、と繰り返すばかりだった。
理由を訊いても、ちょっと……と言葉を濁して、そのまま黙り込んで
しまう。何も解決しないばかりか、胸騒ぎが増すだけだった。
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