そばにいて クリスマス編 4
2.クリスマスなのに 1
ごめん。クリスマスに
そっちに行けなくなった。
年が明けたら必ず行く。
本当にごめん。
優花は何度も何度も同じメッセージを見ていた。
昨日、真澄ちゃんから届いたラインは一気に優花を地の底に突き
落とすような、衝撃的な内容だったのだ。
プレゼントも買ったし、あとはクリスマス当日を待つだけだというのに。
真澄ちゃんが通い始めた新しい高校は二十五日まで登校することに
なっている。前期後期の二学期制なので、当日は終業式という形式
ばった行事はなく、大掃除とホームルームがあるだけだと言っていた。
学校が終わり次第、午後からこちらに向かう予定だった。イブに
会えないのは授業があるから仕方ないとあきらめていたけれど、まさか
クリスマス当日まで会えないとは……。
その日を指折り数えて待っていた優花は、ショックのあまり、しばらくは
声すらも出せなかった。
真澄ちゃん家族が、急きょぶどう園を継ぐことになってから、いろいろ
大変だというのは聞いていたが、まさかここまで忙しいとは全く想像すら
していなかった。
彼のお父さんは、仕事を続けながらぶどう園の世話も両立するらしい。
そのため、彼のお母さんと真澄ちゃん自身も多忙なお父さんを支えて
家族総出で農業に勤しむというのは理解しているつもりだった。
今まで農作業はすべておじいさんに任せっきりだったらしい。誰もが
未経験なので、真澄ちゃんは部活にも入らず真っ直ぐに帰宅して、農園に
入り浸る毎日だという。冬の日暮れは早いので、登校前に作業をすることも
多く、毎日眠くてたまらないと先週電話で聞いたばかりだ。
これから訪れる雪の季節に備えて、ぶどうの木にわらを巻きつけたり
枝の剪定をしたり、肥料を施したり……。
朝顔しか育てたことのない優花には、どれもこれもが未知の世界の
出来事でしかないのだが、とにかく目が回るほど忙しいというのは、彼の
話しぶりで充分に伝わってきた。
でも、だからって。クリスマス当日まで働くだなんて、優花には到底
理解できなかった。が、しかし、彼が来ることが出来なくなった理由が
農作業だと聞いたわけではない。ラインに何も理由は書かれていない。
つまり、別の事情がそこに隠れているのではないかと、新たな不安が
優花の脳裏をよぎる。
旧友に会うよりも優先したい理由があると考えるだけで、胸が苦しく
なった。彼に告白したわけでも、されたわけでもない。恋人同士では
ないのだから、会えなくなったからといって、優花には彼をとがめる資格が
あるはずもなく。所詮、ラインとたまの電話だけの付き合いなんて、この
程度のものだ。優花が真澄ちゃんにとって、少しも特別な存在ではないと
証明されたにすぎない。
毎日やり取りしていたラインも、昨日と今日は全くやる気にならない。
スマホの画面を眺めていても、一文字だって埋まらない。
学校で今日一日あったことも何一つ思い出せないくらい、昨日の彼の
爆弾宣言は優花を打ちのめしていた。
期末テストの結果が返って来たことだけは机の上に広げている印刷物で
わかる。高校入学以来、やっとまともな点数を取れたにもかかわらず、心は
ずーんと沈みこんだままだ。
絵里にどのように報告すればいいのだろう。何も言わなくても勘のいい
この親友は、二人の間に何かあったことくらい、すぐに気付くに違いない。
絵里と一緒に買いに行ったプレゼントは、郵送すればそれで済む。けれど
その行為すらも迷惑かもしれないと思うと、いたたまれなくなる。
優花はベッドの上にポンと放り投げた彼へのプレゼントの包みを、恨めし
げに眺めて思わず泣きそうになるのをこらえる。
その中身は、オフホワイトの手編み風マフラーだ。自分で編んでみようと
ネット検索して動画サイトを見たりもしたのだが……。絵里の猛烈な反対に
あい、いとも簡単に却下された。よく練習してから贈った方がいいよと
アドバイスを受ける。というのも、絵里のお姉さんが彼氏にセーターを
プレゼントすると言って編み始めたのはいいが、ほどいてばかりで、とうとう
期日になっても完成しなかった、という悲惨な事件が、つい最近起こった
らしい。くさり編みしかやったことがない優花の場合も絵里のお姉さんと
同様、編み目の揃わない無残な物に仕上がるのは目に見えていた。
だから今回は作るのはあきらめ、店をあちこち回って、彼に似合いそうな
マフラーを一生懸命選んだというのに……。
彼の目の前で、それを渡すことが叶わないだなんて、こんなに悔しいことは
ない。
優花はグスンと鼻をすすり、枕カバーを涙で濡らしながら、そのまま眠って
しまった。
クリックでの応援
よろしくお願いします
↓↓
Copyright (C) since 2008 Mayuri Ohira, All rights reserved.
