そばにいて クリスマス編 3

 

 

 

 1.友だち以上、恋人未満 3

 

 

 

 

  その話を聞いた時、えっ? なんで? と優花の心の中が

 疑問符で埋め尽くされた。

  まさか、真澄ちゃんが妹の愛花のことが好き……とか? 

  優花はとんでもない妄想で一気にどん底に落とされた気分に

 なり、身体中が重力で押しつぶされそうな感覚に陥った。

  ところが彼の表情や話し方を見ていたら、そんな不安もすぐに

 吹き飛ぶ。含み笑いをして優花に目配せをする真澄ちゃんは

 あきらかに愛花の予測不可能なユニークな行動を楽しみにして

 いると言わんばかりだった。

  これくらいのことで嫉妬してしまった自分が恥ずかしくなる。

  真澄ちゃんと愛花が特別な関係になることなんて、あるわけが

 ないのに。

  愛花は昔から真澄ちゃんのことを親分のように慕いなついていた。

  野球やサッカーの仲間にも入れてもらっていたので、優花より、

 一緒に遊んでいる時間が長かったのかもしれない。いきなり突拍子も

 ないことをする愛花は、おもしろネタには事欠かない。石水家の

 ムードメーカーでもある。

  もう少し落ち着いて早とちり名人の汚名を返上すれば、姉より数段

 整った容姿をしている彼女のことだ。きっともてるに違いないと思って

 いた。

  愛花の将来の夢は、宇宙飛行士になることだ。宇宙ステーションで

 様々な国の人たちと協力して、エネルギーの開発研究をしたいと

 常日頃から口ぐせのように言っている。

  どこでそんな知識を得るのか、優花にとっては未知との遭遇と同等

 レベルの理解不能な世界感だが、彼女の夢は夢で終わらずに現実に

 なるような気がしている。愛花はそんな不思議なパワーを持った子だ。

  昨日も無重力に耐える訓練だと言って、パソコンの前に置いてある

 事務用の回転いすに座り、勢いをつけて高速回転を何度もやっていた。

  危ないからやめてと言ってもきかない。彼女はいたって真剣なのだ。

  もちろん、回りすぎてふらふらになった愛花の様子を事細かに真澄

 ちゃんに報告したのは言うまでもない。

 

  たった今、絵里に話を聞いていないと言われたばかりなのに、また

 真澄ちゃんのことを考えていた自分に気付き、優花はふうっとため息

 をつく。

 「どうしたの? 今度はため息? せっかくの幸せが逃げちゃうよ」

  狭い椅子に二人で腰かけたまま、絵里が覗き込むようにして言った。

 「あ……。幸せが逃げちゃうの? そんなの嫌だよ」

 「なら、もっと楽しそうにしなきゃ。彼に会えないのは辛いだろうけど。

 そうだ、ねえ、優花。吉永は、クリスマスにはこっちに来るんでしょ?

 だったら、プレゼントは直接渡した方がよくない? 」

  絵里は優花と真澄ちゃんの関係がもどかしくて仕方ないのか、しきりに

 クリスマスの過ごし方をあれこれ指図するのだ。

  ……だから。わたしたちはまだ、絵里が思っているような、恋人同士

 なんかじゃ、ないんだってば……。

 「ええっ? なに? 今、なんか言った? 」

  優花の心の中を読み取ったかのように、絵里が目をくりくりさせて

 そんなことを聞く。

 「あっ、いや、なんでもないよ。ねえねえ、絵里。多分、真澄ちゃんは

 クリスマスに、はやと君の家に泊まりに来るはずだから、その時に

 プレゼント渡そうかな」

 「うん。うん。それがいいよ。やっと前向きになってくれたね。その場で

 喜んでくれる姿を見るのが一番いいもの。そうと決まったら、プレゼント 

 は何がいいかな? そうだ、あたしのアネキに訊いてみようか? 」

 「それいい! お姉さんって頼りになるよね」

 「まかしといて。いいアイデアをゲットしたら、ライン送るよ。ところで

 吉永は……。優花に何をプレゼントするつもりなのかな? 気になる。

 そうだ、やっぱ、指輪かな? 」

 「やめてよーー。またそんなこと言ってる。指輪なんて、ありえないって」

  絵里のとんでもなくぶっ飛んだ発想にあきれながらも、優花は次第に

 頬がカッと熱くなっていくのを感じていた。たとえ指輪でなくても、彼からの

 プレゼントなら何でも嬉しいと思う。でも……。

  真澄ちゃんからプレゼントをもらえる保障なんて、あるわけもなく。

  恋人同士でもなければ、まだ告白も出来ていないままだ。

  あれほど告白するんだと息巻いていたにもかかわらず、駅のホームで

 気付いた時には、すでに抱きしめられていたし、あの日も、次の日も。

  彼が帰ってしまうその瞬間まで、ずっと手をつないだままだったので

 あまりにも近くに寄り添い過ぎたためか、告白のタイミングが見つから

 なかったというのが、一番の理由だ。

  でも何も言わなくても、すでに優花の気持ちは彼に伝わっていると

 思っている。そのことも絵里にちゃんと話したのだが、もう付き合って

 いるも同然だと言って譲らない。

  優花に会うために戻って来て、抱きしめられて、手をつないでいた

 事実は、彼が優花を彼女として捉えている証拠だと力説する。

  お互いに好きだとも、付き合おうとも言っていないのに?

  絵里の強引な見解はやはり優花には納得できるものではなかった。

  彼との関係はどのように説明すれば絵里に納得してもらえるのだろう。

 

  授業開始のチャイムが鳴る。じゃあ、またあとでね、と言って絵里が

 自分の席に戻って行く。

 「友だち以上、恋人未満、かな……」

  優花は絵里の背中に向かって、吐息混じりに、ボソッとつぶやいた。

 

  

 

 

 

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