そばにいて クリスマス編 2
1.友だち以上、恋人未満 2
これ以上絵里に何を言っても無駄だと悟った優花は、取りあえず
彼女に逆らうのを辞めたのだが……。まんざらでもなかった、と
言うのが優花の本心だったりする。この状況を嬉しく思ってしまう
自分がいるのも事実だ。
あの日、優花と真澄ちゃんが再会し、ホームを降りて改札口から
出て行くと、まるで温泉旅館のスタッフの出迎えのように、絵里と
勇人君が手をこまねいてそこで待っていた。
ほーらね、やっぱり二人そろって戻ってきた、と言って、絵里は
得意げに胸を張る。
その時の優花と真澄ちゃんが、まるで恋人同士のようにべったりと
寄り添っていて、どこをどう見てもラブラブだったとのたまう。
でも優花には正当な言い訳があった。あの時は、ああするしか方法
がなかったからだと。
駅のホームで再会できたのが奇跡のように思えて、嬉しさのあまり
その場から動くことも出来ず、ずっと泣いていたのだ。そんな優花を
そのままにしておくわけにもいかず、真澄ちゃんが実力行使に出て
優花の手を引いてそこから連れ出した、という理論だ。
それしか選択肢がなかったのだから、断じてラブラブでくっついて
いたわけではない、と説明するのだが、絵里は全く受け付けてくれ
ない。
そして、その時勘違いした出迎えの二人が、邪魔しちゃ悪いよね
と言って、にやにやしながら姿をくらましたものだから、残された
優花が真澄ちゃんと二人だけになって、どれだけ気まずい思いを
したことか……。
絵里はその事実すら、またまたそんなこと言っちゃって、と笑う
ばかりで、まじめに取り合ってくれないまま今日にいたる。
結局その日、真澄ちゃんは予定していた電車に間に合わなくなった
ため、急きょ、勇人君の家に泊まることになった。真澄ちゃんの住んで
いた部屋は、ガスも電気も水道も止まっているのでどうしようもない。
そして次の日。これまた勇人君の陰謀で優花が一人で真澄ちゃんを
見送ることになった。本当は長野まで一緒についていきたかったけど
もちろん、最寄りの駅までの見送りだ。
次の日からはもう会えないのに。学校でもマンションでも、もう絶対に
会えないのに……。
無情にも、別れの時はあっという間に優花の前に訪れた。
じゃあな、と言って、信じられないくらいあっさりと、改札口に吸い込ま
れていく。夕べと違って時間にゆとりがあるので、旅費の節約のため
新幹線は使わないと言っていた。そんな彼が優花の前からぐんぐん
遠ざかって行く。大きくて頼りがいのある後ろ姿が、瞬く間に人の波に
のまれて行った。
右に左に移動してみても、背伸びをしてみても。優花の視界に真澄
ちゃんが再び捉えられることはなかった。
締め付けられるような胸の痛みを感じながら、歯を食いしばって涙を
こらえた。何度もまばたきをして涙を押しとどめ、絶対に泣かないぞと
自分に言い聞かせる。笑顔を保ったまま、見えない彼に向かって手を
振り続けた。そんな優花の思いなど、何も知りもしないのだ。彼は結局
振り返ることもなく、引き返して来ることもなく。黙って行ってしまったのだ。
それでよかったのかもしれない。もし彼が振り返ったならば、きっと
別れるのが辛くなって、前日と同じように泣いてしまっただろう。そして
泣いている優花を見た真澄ちゃんは。そんな優花を一人にしておけ
なくて引き返し、永久に長野に戻れなくなってしまう。
これでよかったのだ。
そう思うことで、気持ちに区切りがついたのだから。
ただし、ちょっぴり嬉しいこともあった。毎日でなくてもいいから、ライン
で近況報告をしてほしいと言われたのだ。もう絶対に消さないからと
彼に約束もした。
遠く離ればなれになっても、こうやってつながっていられるのだ。優花は
この宝物を、二度と手放さないと心に誓った。
今までは、あんなに近くに住んでいても遠くから見つめていることしか
出来なかった真澄ちゃんが、今ではこんなにも身近に感じられるように
なるなんて、いったい誰が想像しただろう。
あの日も、彼を見送って五分も経たないうちに、すぐにメッセージを
送っていた。昨日は戻って来てくれてありがとう、会えて嬉しかった、気を
つけて長野に帰ってね、と。たったそれだけのことだけど、幸せ過ぎて
天にも昇る気持ちだった。
返事もすぐに返って来た。短い文章ばかりで、スタンプもないけれど。
彼らしい返信に心が浮き立ち、笑顔になる。
真澄ちゃんは、ラインやメールは苦手だが、読むのは好きなので学校
のことやマンションで起こったことを知らせてくれると嬉しいと言っていた。
それともうひとつ。首を傾げるような摩訶不思議なリクエストがある。
彼には兄弟がいない。だからかどうかはわからないが、妹の愛花の
ことも知らせて欲しいと言うのだ。すると突然もやもやした感情が湧き
おこり次の言葉が出なくなってしまった。それは、一つ違いの妹に対して
初めて抱いた嫉妬心だったのかもしれない。
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