そばにいて クリスマス編 1

 

 

 

 1.友だち以上、恋人未満 1

 

 

 

 

 

 「……ってなわけ。だ、か、ら。あれれれ、優花ちゃーーん!

 どうしましたかぁ? こらっ、ゆうかっ! 」

  絵里が優花の鼻のてっぺんを、だ、か、ら、と三回人差し指で

 トントンした後、大きな声で叫んだ。

  教室の後ろの席に集まっていた男子がぎょっとした顔をして

 一斉にこちらを向く。それでようやく、優花はどこかにさまよって

 いた意識を現実の世界に呼び戻すのだ。

 「あっ、絵里……」

 「んもうっ! あ、絵里、じゃないし。優花ったら、もしかして……。

 あたしが言ったこと、なんにも聞いてなかった? 」

  絵里がすねたように口を尖らせる。

 「ごめん。ちょっと考え事してたから。えっと、なんだっけ? 」

  絵里の不機嫌さがますます増長するのは覚悟して、もう一度

 訊ねた。

 「はあ? 全く何も聞いてなかったの? 優花。ねえ、そうなの? 」

 「うん、まあ……」

  優花はしょんぼりとうな垂れる。絵里には申し訳ないが、本当に

 何も聞いてなかったのだ。

  絵里がオーバーアクションぎみに首を振り、ああーーっとうなる

 ような声を出す。あきれてやってられない、とでも言うような、それは

 それは、心の底から残念そうなため息だった。

 「……んっとにしょうがないな。じゃあ、もう一度言うよ。今度こそ

 ちゃんと聞いてね。クリスマスプレゼント。あさっての土曜日に一緒に

 買いに行こうっては、な、し! まさか忘れたなんて言わないよね? 」

 「あ、う、うん。そうだったね。うんうん、思い出した。忘れるはずないよ。

 あは、は、ははは……」

 「あははじゃ、ないし。しっかりしてよね。大事なことなんだから」

 「うん。わかってる。絵里、ごめんね」

  優花はこれ以上絵里の機嫌を損ねないようにと、あくまでも低姿勢を

 貫く。ちゃんとプレゼントを用意して、クリスマスまでに長野に着くように

 送るんだよと、絵里に何度も釘を刺されていたのだ。

 「ホント、あの時以来、優花はいつもこんな調子だもんね」

  絵里の意味ありげな視線が今日もまた優花にチクリと突き刺さる。

 「絵里ってば。またそんなこと言ってるし。考えすぎだって。わたしは

 ずっと前から、こんな感じだよ」

 「何言ってるんだか。絶対にあの日から、優花は変わったんだってば。

 それはもう、まるで蝶がさなぎから脱皮するかのごとく……って、誰の

 こと考えてるのか、あたしは知らないけどさ」

  知らないと言いながらも、すべてお見通しですよ、と絵里の目が

 はっきりと語っている。

 「ちがうって。そ、その人のことなんか、考えてないって」

  優花は頭をぶんぶん振って、誤解を解こうとがんばってみるのだが。

  所詮、ぬかに釘、のれんに腕押し。否定すればするほど化けの皮が

 はがれるかのように、気持ちが露わになって行く。肯定へ一直線だ。

 「このおーーーっ。幸せものが! 」

  絵里が力任せに優花の頬を両手で挟み込んだので、くちびるが

 まるで鳥のくちばしのように、前にぷにょっと突き出た。

 「絵里ったら、こんにゃの、恥じゅかしゅいよー。ほ、ほら、みゅんにゃが

 見ゅてるから。おにょがい、やみょて(お願い、やめて)」

  優花は自由にならない口を駆使して、絵里に涙目で抗議する。

 「だって、優花の目がハートマークになってるんだもん。誰だってこう

 したくなるって」

 「そんにゃぁぁ、ハートミャークなんかじゃないってびゃ」

  ますます力が入る絵里の手に負けないように、ほっぺの筋肉に力を

 入れて話すけれど、日本語の発音にはほど遠くて。

 「それにしても、まだ信じられないよね。あたしたちの中で、一番そんな

 ことに興味ありません、って顔してた優花が、真っ先にカレシ作っちゃう

 んだもん。あたしなんて、先輩にフラれてから、ちっともいいことないし。

 あと二週間で相手を探せって言う方が無理」

  ようやく優花から手を離した絵里が、机に肘をついて手のひらに顔を

 載せ、さも不服そうに口をへの字に曲げた。

 「絵里、ちょっと待って」

  優花はやっと自由になった口で、絵里の暴走発言を止める。

 「ねえ絵里、いつも言ってるでしょ? 真澄ちゃんは、そ、その……。

 カレシじゃないって……」

  優花はクラスのみんなに聞かれないように声をひそめ、できるだけ

 絵里の耳元に近付いて弁明する。絵里はあの日以来、ことあるごとに

 優花と真澄ちゃんのことをネタにしてからかうのだ。

 「はいはい。優花の大切な真澄ちゃんとやらは、付き合ってもいない

 女の子と、幼なじみっていう理由だけで、嬉しそうに手をつなぐんだよ

 ねーー。こうやって、べったりくっついてね」

  絵里が急に立ち上がり、ぐるりと回って優花のところにやって来たと

 思ったら。同じ椅子に無理やり半分座って、べとっとくっついた。

  優花が真澄ちゃんを追いかけて駅に行った日のことを、いつもそう

 やって冷やかして、おもしろがるのだ。

 

 

 

 

 

クリックでの応援

よろしくお願いします

     ↓↓

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村

 

 

目次 

 

 

 

             Copyright (C) since 2008 Mayuri Ohira, All rights reserved.