そばにいて
29.行かないで 2
「真澄君。やっぱり来てたんだ」
「マミ……」
「真澄君、なんで黙って行っちゃったの? 」
彼のすぐ横にいる絵里の存在など全く無視して麻美が詰め寄る。
「ラインは既読にすらならないし。あたしたち、本当に、もう終わった
の? 」
麻美のただならぬ様子に、廊下を通り過ぎて行く人までもが立ち
止まり教室内を覗いている。
絵里も今の彼女に何を言っても無駄だと悟ったのか、何も言わず
腕を組み成り行きを見守っている。
「大園……」
「あたしがどんな気持ちで今日までいたか、真澄君にわかる?
長野にしばらくいるって聞いてただけで、転校するなんて、まったく
知らなかった」
「誰にも言ってないよ。はやと以外には」
「そんなのいや。鳴崎に言って、なんであたしには言ってくれないの?
優花にも……言ってない? 」
いつもの麻美とは到底思えない、怯えたようなうつろな瞳が優花の
視線と交わった。どうしてここで優花の名前が出てくるのか、理解に
苦しむ。そんなこと、あるはずがない。勇人君に言われるまで、優花
も転校のことは知らなかったのだから。
「ああ、言ってない。なあ、大園。俺たち、もうすでに何も関係のない
間柄だよな? 別れようって言ったのは、大園だろ? 」
「言った。言ったわ。でも、真澄君が転校するなんて、知らなかった
から。こんな大切なこと、知らないままでいるなんて、いくらなんでも
ひどすぎる」
「ああ……。悪かった……」
「真澄君、お願い。あたしの最後のわがままを聞いて。今日で……。
今日で本当に終わりにするから。だから、あたしに見送らせて欲し
いの。ね、いいでしょ? 」
「マミ! いったいどうしたの? 体調もよくないんでしょ? 」
絵里が慌てたように麻美の前に立ち、彼女の両肩を持って顔を
のぞき込む。
「絵里、あたしに構わないでっ! 」
身体をひねって、肩に載せられていた絵里の両腕を乱暴に振り
払った。
「絵里には関係ないでしょ? 絵里は、絵里には……。あたしの気持
ちなんてわかりっこないんだから」
「マミ、本当にどうしたって言うの? 変だよ。マミ、おかしいよ」
麻美は絵里の声にはいっさい耳を貸そうとしないで、真澄ちゃんに
すがりつく。
「お願い、真澄君! お願いだから、あたしに……見送らせて……」
麻美が真澄ちゃんの腕にしがみついた。その時、彼が何か言いた
そうな目をして優花を見た。
言わなければ。今すぐにでも。
真澄ちゃん、待って。行かないで、と。
けれど、胸の中に渦巻く思いがうまく言葉にならない。
「吉永君……」
優花はその場で彼の名を呼んでいた。そして……。
「マミの……。マミの願いを叶えてあげて。お願い」
そう言った後、全身の力が抜けて、立っていることすらおぼつかなく
なる。
「石水……」
それでも彼はまだ何かを決めかねているのかそこを動こうとしない。
「さっき、絵里が言ったことは忘れて。ただ……。ただ向こうでも、がん
ばってね、って言いたかっただけ。それだけ。だから、ね、吉永君」
「……わかった。大園、行くぞ」
真澄ちゃんが行ってしまう。とうとう、本当の気持ちも言えないまま
別れの時が来てしまったのだ。
彼が歩いていく後ろを麻美がついていく。
優花はそのまま教室のドアにもたれかかり、次第に遠ざかる二人の
姿を、ぼんやりと眺めていた。
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