そばにいて

 

 

 

 27.真実 2

 

 

 

 「わたし。真澄ちゃんに、好きだって伝える。そして、長野でもがんばって

 ねって、ちゃんと言うつもりだから」

 「よし! いいぞ、ゆうちゃん。ああ、僕が堂々とゆうちゃんと真澄を応援

 できたらよかったんだけどな。あいつにゆうちゃんのこと、無理やりにでも

 気付かせてやりたいけど、それを強行すると、大園をないがしろにして

 しまうし。そりゃあ、僕だって、一日でも早くあの二人の仲を引き裂いて

 やりたいけど、それは大園の気持ちを傷つけることになる。ゆうちゃんと

 真澄のためにはそうしたいけど、大園を悲しませたくないんだよな。ああ

 複雑だよ。男として、卑怯な手は使いたくないしね。ゆうちゃん、ごめん。

 力になれなくて、本当にごめん」

  勇人君が申し訳なさそうに頭を下げる。勇人君だって好きな人が自分の

 親友と付き合っているだなんてとてつもなく辛い立場なのに、これ以上

 彼に何を望むというのだろう。もう充分だった。

 「はやと君、いろいろありがと。絵里もありがとね。ほんっとに嬉しかった。

 わたしはもう、ぜんっぜん大丈夫だから。……って、大変! こんなに遅く

 なっちゃった。絵里のお姉さんたち、家で待ちくたびれてるかも。そうだ

 はやと君、今から駅の方まで行くんでしょ? 」

 「そうだけど? あ、もしかして、本城さんもバス? 」

 「うん。絵里は途中で乗り換えるけど、そこまで一緒に帰ってもらえる? 」

 「そういうことだね。なら別にいいけど。でも……。本城さんが……」

  急激に勇人君のテンションが降下していく。

 「あのさ、あたしは、別にどっちでもいいけどね。っていうかさ、送って

 もらわなくても、全く平気なんだけど。別に鳴崎がいてもいなくても一緒

 でしょ? 何も変わらないと思うし」

  絵里が背筋をピンと伸ばし、腕を組む。

 「それ、ちょっとカチンときた。そんな風に言われると、何が何でも送りたく

 なるね。よし、こうなったら、本城さんの家まで送ってやる。世の中には

 物好きな男もいて、キミがこんなにも強情で、いばりんぼだってことを

 知らずに襲うマヌケなヤツがいるからね。なんでキミはいつも怒って

 るんだろ。こんな人がゆうちゃんや大園と友だちってことが、まず、信じ

 られないよ」

 「強情で、いばりんぼ? ナルサキクン、あんた、結構いい度胸してるね。

 今言ったこと、憶えておきなさいよ。いいわね! 」

  絵里のきれいな横顔が、ツンと上を向く。

 「はあ? 僕だって男ってとこを見せてやる。ちゃんとエスコートして送り

 届けるよ。なんてことだろ。キミみたいなあつかましい人、生まれて初めて

 見たよ」

 「なによっ! 」

 「なんだよ! 」

  優花が幾分顔を引きつらせながら、今日はありがと、また明日ね、と

 手を振っているのに、二人は言い争いを辞める気配もなく、頭のてっぺん

 から怒りと興奮の蒸気を吹き出しながらバス停に向かって行く。

  そんな二人を見送っているうちに、いつの間にか涙も乾き、心が随分

 軽くなっているのに気付く。あの二人に会ったおかげで、泣いていた原因が

 何だったのか、すぐには思い出せないくらいになっていた。

  もうちょっとだけ待ってみよう。そうすれば、真澄ちゃんが学校に来る。

  その時にすべてを打ち明ければいいのだと、優花は自分自身に言い

 きかせるのだった。

 

  次の日、学校ではすでに真澄ちゃんの引っ越しの話で持ちきりになていた。

  何人もの同級生や陸上部の先輩が同じマンションに住んでいるので、情報

 量は豊富だが、昨日の勇人君ほどの正確さはない。

  近所の戸建てに住み替えただけだの、親だけ実家に戻っただの、果ては

 お父さんの海外転勤に同行するだの、理由にいたってはめちゃくちゃだったが

 とにかく、もうあのマンションにはいないということだけは、みんなが共通理解

 していた。

  そんな中、絵里が優花の横に並ぶように座って、浮かない顔をしていた。

 「マミさ、今日、学校に来てないんだよね。何の連絡もないし。心配だな」

  優花も同じ気持ちだった。麻美には昨夜も何度か連絡してみたけれど、返信

 はなかった。

 「放課後、一旦家に帰ってから、大園医院に寄ってみようと思うんだ。もし具合

 が悪そうだったら、明日、優花も一緒にお見舞いに行く? うーん、迷うな」

 「そうだね、行こうかな。わたしが休んだ時も、二人してきてくれたもんね。

 それにしても、どうしたんだろうね。風邪かな? でもいつもなら、何か連絡して

 くれるし……。やっぱり彼が引っ越したことが関係してるのかもね」

  片想いの優花ですら、夕べはあんなに取り乱してしまったのだ。彼と付き

 合っている麻美であるならば、受けたショックは相当なものだっただろう。

  優花はその時、ふと気付いた。偽善者になるのはもう辞めにしたのだったと。

  落ち込んでいるかもしれない麻美に口先だけの励ましの言葉は、かえって

 彼女を傷つけてしまうのではないか。ならば……。

 「ねえ、優花。やっぱ、優花はお見舞いに行かない方がいいかも」

 「うん。わたしも今、そのこと考えてた」

 「だって、吉永に告白するんだもんね。マミが吉永がらみで気持ちが病んでる

 のなら、優花とマミはライバル同士、会うのは不自然だし、マミもそれを望ま

 ないと思う」

  絵里の言葉がすっと優花の胸にしみこむ。

 「そうだね。マミのこと心配だけど、今は行くべきじゃないかも」

 「わかった。そうしよう。マミのことはあたしにまかせて。また報告するからね」

 「ありがと、絵里」

 「何言ってるの。気にしないで。それはそうと、吉永。いつ来るんだろうね」

 「はやと君は、来週って言ってたよね。今日は木曜日だから、早ければ四日後。

 遅ければ、一週間以上あとだね。ああ、早く会いたいな」

 「ふふふ。優花ってば、なんか変わったよね。そんなに吉永のことが好きだった

 なら、もっと早く打ち明けてくれてたらよかったのに。マミよりも先に告白して

 いれば、こんな風にならなかったかもしれないのにね」

 「絵里……」

  時を戻すことは出来ないとわかっていても、そんなことを考えてしまうのは

 絵里だけではない。優花も過去のふがいない自分を後悔し続けている。

 「こらっ! 本城。さっさと自分の席に着け―い」

  ホームルームのために、担任が教室に入って来た。絵里はペロッと舌を

 出して肩をすくめ、素早く席に戻った。朝のあいさつが終わるや否や、鶴本

 先生のテナーボイスが教室中に響き渡る。

 「えーっと、吉永のことなんだが」

  教室内の全員の視線が、教卓に両手をついて立つ教師に注がれた。

  

 

 

 

 

 

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