そばにいて
27.真実 1
「えっと、どうしよっか。あ、でもこれはきっとあいつからの無言の依頼
だと思う。僕の口から、ゆうちゃんに伝えてくれってね」
「そうなんだ……」
優花は勇人君の口から語られる言葉を今か今かと待った。
「あいつ、転校するんだ。まさかそんなことになっているなんて、僕は
もちろん、家族も知らなくて、みんな驚いていたけどね」
「そっか、転校、する……ん……だ」
心臓が急にドクドクと鼓動を早め、ジーっと耳鳴りもする。真っ直ぐに
立っていられなくて、身体が後方に揺らいだ。
「優花! 大丈夫? 」
絵里がすかさず腕をとって支えてくれた。一瞬驚いたような表情を
浮かべた勇人君だったが、一呼吸置いて話を続ける。
「僕と真澄、ちょっと前に、大園のことでやり合っただろ? それもあって
しばらくはお互い無視していたんだけどね。エレベーターで顔を合わせた
時なんて、そりゃあもう、最悪だったよ。そしたら、長野に行く前日だった
かな。あいつから折れてきて、今生の別れみたいなことを言い出すから
変だな、とは思ったんだけど。なら、案の定……。長野のおじいさんの
病状が思わしくなくて、向こうで家族と住むことになったって、今日、突然
電話があって」
「おじいさん、よくないんだね……」
優花は力なくつぶやいた。勇人君の言っていることがまだ信じられない。
向こうで家族と住むということは、もうここには戻って来ない。本当に
いなくなってしまったのだ。優花のそばから真澄ちゃんが……。
「ああ。おじいさん、かなり悪いみたいなんだ。真澄のお父さんは、こっち
の仕事の都合で、向こうに行くのを渋っていたみたいだけどね。長野の
支社に急きょ移って、今後のことを考えていくんだって。ぶどう園だけじゃ
なくて、他にも農作物を手広く作っているみたいだし、とにかく一家総出で
やらなきゃいけないことが山ほどあるらしくて。そうそう、新しい高校も
検討中で、勉強も大変……って、おい、ゆうちゃん、どうしたんだよ? 」
優花の変化に気付いたのか、勇人君があわてている。
「ほんっとに、あんたって人は、なんでそんなに鈍感なんだろ。自分だって
マミに恋してるんならわかるでしょ? 優花の気持ち」
ついにこらえきれなくなって涙があふれ出す優花をかばうように、絵里が
勇人君をいさめる。
「ゆうちゃんの気持ち? あ、ああ。それならわかってるつもりだよ。でも
隠しておけることじゃないし、ゆうちゃんだって真実を知っておく必要がある
だろ? 」
「だからって、何もそんなにストレートに言わなくたって。今日だって、何の
前触れもなく急に吉永んちが引っ越しちゃうから。優花がどれだけショック
を受けたか、あんた、ホントにわかってんの? 」
「本城さん……」
今にも掴みかからんばかりの絵里の剣幕に、勇人君がじりじりと後ずさって
いく。
「絵里、もういいって。わたしは平気だって……」
「だって、こいつ、ひどいんだもん。優花がこんなに苦しんでいるのに、なんで
そこまで言うのよ! 」
優花は絵里の手を引き、勇人君からやっとのことで引き離す。
ここで悲劇のヒロインに浸っている場合ではないのだ。絵里だけでなく
勇人君にまで迷惑をかけるのは、優花の本意ではない。
「はやと君、教えてくれてありがと。わたしも何だかおかしいなって、思って
たんだ。今のはやと君の話を聞いたら、全部納得したよ。真澄ちゃん、きっと
前から引っ越しのこと、わかってたんだと思う。でも、わたしたちの周りの
みんなを驚かせたくなくて、何も言わなかったんだよね? 」
一番知りたかったことを包み隠さず教えてくれた勇人君に、素直に感謝の
気持ちを伝える。何も知らずに真澄ちゃんを待ち続けるよりはずっといい。
「ゆうちゃん、違うよ。それは違うと思うな」
思わぬ否定に、絵里が再び勇人君を睨み付ける。その眼は、これ以上
優花に余計なことは言わないで、と訴えているようだった。
「本城さん、安心して。僕はゆうちゃんの味方だから」
勇人君が絵里に向かって優しく目を細めた。それでもまだ絵里は納得が
いかないのか、眉間にしわを寄せて、彼をけん制している。
「真澄は、自分自身が辛いから言えなかったんだよ。本当はここを離れたく
なかったんだろうな。なあ、ゆうちゃん。最後のチャンスだよ。あいつさあ、
来週、こっちに帰って来て、転校手続きをするって言ってた。大園のことは
気にせず、ゆうちゃんの気持ちをちゃんと伝えた方がいいと思うよ。真澄は
恋愛感情に疎いんだよ。ゆうちゃんに言ってもらわないと、自分の本当の
気持ちに気付かない、大ばか者なんだ。いや、わかっていたとしても、転校
してしまう自分は、ゆうちゃんにふさわしくないとか思ってるのかも」
「はやと君……」
「ゆうちゃん、やっぱり真澄のことが好きなんだろ? もっと自信を持てよ」
絵里の表情がみるみる和らいでくる。
「優花、鳴崎の言う通りだよ。もっと自信を持って。このチャンスを活かさなきゃ」
優花は絵里と勇人君に向かって、大きく頷いて見せた。
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