そばにいて
23.たとえばの話なんだけど 2
また顔に書いてあったのだろうか。どうりでいつも愛花にトランプで
負けてばかりだよな、と思い当たる。ここは素直に認めざるをえない。
「そ、その……。この前、その、吉永君にそんなこと、言われて……」
「ふうーーっ。やってらんないよ。……あのね、優花。嫌いな人や
どうでもいい人のことが、心配で心配でたまらなくなるってこと、ある?
悪いけど、あたしはないよ。好きな人と親友と、家族や仲のいい親戚
以外にはそんな気持ちにならない。で、吉永にどんな心配をかけた
っていうの? あたしの目が節穴だと思ったら大間違いよ。なんかさ
テスト前くらいから怪しかったのよね、優花とマミ……」
もしかして。ミコとサリに言いがかりを付けられた日のことだろうか。
絶対に絵里には気付かれないようにと、かなり注意を払ってきた
はずだ。なのに、絵里はその異変をすでにキャッチしていたとでも?
やはり、不自然なぎこちなさが隠し切れなかったというわけだ。絵里
に迷惑をかけないようにと内緒にしていたことが、かえって不信感を
いだかせることになっていたとは。
絵里自身も先輩のことで心を痛めていた時期と重なるので、今まで
追及されずに済んでいたのだろう。しかし、それも今日まで。優花は
ついに白旗を揚げ、すべてを絵里に話すことになってしまった。
「なるほどね。これで今までの疑問がすべてつながった。なんかさ、隣の
クラスのあの派手な二人が、ちょこちょここのクラスを覗いてたのよね。
いったい何の用だろうって。そういうことだったってわけか……」
「絵里、ホントにごめんね。こんな恥ずかしいこと、なかなか言い出せ
なくて。絵里が知ったら、きっとわたしを助けようとして、火の海に飛び
込むことが目に見えていたから。だから……」
「恥ずかしいこと? 何いってるの。誰だって優花の立場なら、同じような
ことになるって。そして流されて、そのヒロとかいう男子と結局付き合って
しまうのがオチだから」
「そっか、そうだよね。やっぱ、流されちゃうよね」
「だからさ、優花。これからしばらくは、絶対に一人で帰っちゃダメだよ。
鳴崎でも誰でもいいから、誰かと一緒に帰った方がよくない? 危なっか
しいったらありゃしない。にしても、吉永ってさ。めっちゃカッコいいし。
あたしも、そんな風に助けられてみたいな」
「絵里……。なんだか、ごめんね」
「何言ってんの。んもう、そんなことで謝らない! でもさ、吉永も無理してる
よね。もっと素直になればいいのに。優花がカレにマミを紹介して仲を取り
持とうとしたのが、そもそもの間違いだったんだよね」
「うん……。でもあの時は、吉永君は絶対にわたしのことなんて何とも
思ってないって、信じて疑わなかったんだし。もちろん今だって半信半疑
だよ。でね、わたしね。決めたんだ」
絵里がぱっと顔を上げ、優花を見た。
「あのね、吉永君に、気持ちを伝えることにしたの。カレがどう思って
いようと関係なくね。それでカレがマミを選んだら、きっぱりあきらめる」
「優花……」
「わたし、絵里に背中を押してもらったの。絵里はちゃんと先輩に気持ちを
伝えて、いつも自分にしっかりと向き合っている。だからわたしも決めた。
マミにもきちんと説明するつもりだから」
「そっか。やっと決心したんだ。それがいいよ。あたしだって、マミがふられる
ことになるのは辛いけど、優花が自分に嘘ついて、マミに同情してるって
ことの方が、もっと辛い。マミのためにも、ここは正々堂々と戦うべきだよ。
あたしはいつだって、火の海でも凍った池でも飛び込む覚悟はあるから」
「絵里、ありがと。でもね、戦うとか、そんな激しいことじゃなくてさ。それに
マミがフラれるって決まったわけじゃないし」
「またそんな弱気なこと言って。とにかくすべては、吉永が帰って来てから
だからね。さー、そろそろあたしたちも帰ろっか」
絵里が机をポンと軽やかに叩いて立ち上がり、教科書と副読本でぎっしり
詰まったカバンをよいしょと持ち上げた。
優香も絵里に負けないくらい重いカバンを肩に掛けて、教室を出ようとした
その時。バタバタとすごいスピードで走るスリッパの音が廊下に響き渡った。
「あれ? もしかして鳴崎じゃない? 優香、ほら、あそこ」
廊下側の窓から教室を覗き込む人物に向かって、絵里が指をさした。
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