そばにいて
23.たとえばの話なんだけど 1
今日の時間割は、数A、国語総合、体育、現社、そして英語1に
ホームルーム。 もちろんどの時間も、斜め後ろの吉永君の席は
空いたままだった。高校に入学後、初めての彼の欠席にどの教科
の先生も驚いた顔をしていた。
担任の鶴本先生は吉永君の欠席理由を家の都合としか言わな
かったが、陸上部から情報が漏れたのか、彼が長野に行っている
ことはすでにクラスの全員の知るところとなっていた。
一昨日の土曜日、優花が買い物の途中で絵里を大通りに残した
まま先に帰ったことが、吉永君に関係していると見抜いている絵里は
ふふんと鼻を鳴らし、問い詰める。
「会ってないとは言わせない! ねえ、優花。あの日会ったんでしょ?
吉永と」
絵里はストレートに疑問を投げかける。それもほぼ断定形だ。
「え? あっ……。それは、その……」
「だ、か、ら。会ったよね、よしながく、ん、と」
「あーん、もうっ! なんで会ったってわかるの? ホント、絵里には
敵わないよ……」
「えへへへ。そんなの簡単だって。優花の顔に、あ、い、ま、し、たって
書いてあるもん。で、どうだった? マミの元気のない様子からすると
あの二人、やっぱ、付き合っていないんでしょ? 」
誰もいなくなった教室の片隅でひとつの机を囲むように座って、絵里
が優花の顔を興味深げにのぞき込む。
「それが……。付き合っているような、いないような」
麻美を好きになるように努力する期間だと彼は言っていた。もし好き
になれなくても、それは優花の責任ではないとも言っていた。なんとも
形容しがたい二人の関係だ。まあ、しいて言うなら、恋人お試し期間
と称した方がわかりやすいだろうか。
「何、それ! やっぱ、付き合ってないんじゃない? あたしさ、いつも
アネキの恋事情を間近に見てるから、それとなく恋愛中の女ごころって
わかるんだよね。マミを見る限りじゃ、付き合ってるのとは、ほど遠い
気がする。で、吉永はなんて? 」
「だから、マミを好きになるように努力して、それから付き合うかどうか
決める、とか……」
「変なの。でもさ、吉永が見てるのは、優花なんだけどな。あいつは
絶対に優花のこと意識してるよ。ほら、あるじゃない。好きな子に素直
になれなくて、ついつい心にもない態度で接しちゃうってやつ。昔、から
かわれたっていうのも、実は好きの裏返しかもよ」
やけに嬉しそうに絵里がそんなことを言う。昨日の昼過ぎまでの優花
なら、ここで大反論をして、絵里の口を封じてしまったに違いない。しかし
彼と二人で公園の夜を過ごしてからは、絵里の推測を全面否定できない
自分がいるのも確かだった。
「うーーん。絵里がわたしを応援してくれる気持ちは、とっても嬉しいん
だけど、でもね。彼はわたしが真澄ちゃんのことを好きだってことは
これっぽっちも気付いてないの」
「ますみちゃん、ね。はい、ごちそうさま」
「あ、違うって。ごめん、間違えた……」
あれほど気を付けていたのに。いや、先日までは真澄ちゃんと呼ぶ
方がぎこちなかったのに、今は逆転してしまったようだ。絵里のにやにや
が止まらない。
「絵里、誤解だってば。だから吉永君は、純粋にわたしがマミを応援して
るって、そう思ってるみたいなんだ。ってことは逆に考えると、彼もわたし
のことは、絵里が思ってるほどの深い気持ちで見てるわけじゃないと
思うんだけど」
「えーー? そうかな。吉永は絶対に優花おしだと思うよ。んーー」
腕を組み、まだ納得のいかない顔をして低く唸る。絵里の直感どおり
吉永君が優花のことを少しでも意識してくれているのかと期待もしたが
公園では心浮き立つような事は何も起きなかった。これがすべての答え
だと思う。
「ねえ、絵里。ちょっと訊いてもいい? 」
「なに? 」
「あのね、たとえばの話なんだけど……」
「はいはい、たとえば、ね。それで? 」
「もうっ、絵里ったら。ホントのホントにたとえば、なんだからね。あのね
好きでも何でもない相手のことが、気になって、心配で心配でたまらなく
なることってあるのかな? 」
「へ? なにそれ。誰のはなし? 」
え、絵里。だから、たとえば、って言ってるんだけど。優花は絵里の視線
を無意識に避け、指先をもそもそと動かす。
「いや、あの、だからさーー。一般的に、その……」
「で、吉永にそう言われたの? 優花ちゃんのことが、心配で心配でたま
らないって」
優花はぎょっとして絵里を見た。どうしてこんなに簡単にバレてしまうの
だろうと。
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