そばにいて
21.夕暮のベンチ 4
数学は学年で最高点だったのに、どうして転校? 他の教科も優花には
絶対に真似のできないほどのすばらしい結果だったはずだ。
「転校する友達の最後の願いを叶えてやりたい……。ゆうの考えそうな
ことだよ」
「そういうわけじゃ……」
それだけではない。優花の思いが彼に届くことなど一生ないと確信して
いたからだ。それに自分より麻美の方が吉永君にふさわしいと思った、
というのも理由のひとつになる。つまり優花は自分に自信がなく、彼と今
以上に関係が悪化するのを恐れて、自分の本心を伝えることを断念し
麻美に気持ちを委ねたのだ。
「夏休み明けに長年の誤解が解けて、やっと俺たち仲直りしたんだよな? 」
「うん」
「この先、また昔みたいな関係にもどれるかなって、期待もしてた。もう絶対に
ゆうをからかったりしないって、あの頃のバカな自分を反省したんだ。なんで
あんなにゆうにばかり憎まれ口をきいていたのかって、後悔しかない。俺は
あまり気の利いたことも言えないし、勇人がゆうと一緒に楽しそうに笑って
いるのが悔しかったのかもしれない。嫉妬してたんだ。そしてゆうの気を惹く
ために、心ないことばかり言って、言わなきゃよかったとそのたび落ち込んで。
ホントにガキだったんだ」
「そんなことないって。遊ぶ時もいつも仲間に入れてくれたし、真澄ちゃんが
思うほど、わたし、傷ついてなかったよ。それよか、中学時代に疎遠になった
時の方が寂しかったかも」
「ああ、そうだな。暗黒の中学時代だよな。お互いが避けていると誤解してた
んだ。そして、やっとわだかまりも解けて楽しくやっていけそうだと思ったのも
つかの間。大園と付き合わないかって言われて、俺、ホント、どうしたらいい
のかわからなくて。ゆうがまた俺から離れていくみたいで、辛かった」
優花は彼の気持ちに応えるように、ぎゅっと手を握り返した。たとえほんの
少しであっても優花のことを思ってくれていたのだ。嫉妬でも何でもいい。彼
の心のどこか片隅であっても、優花の存在が埋め込まれていてくれたことが
嬉しかった。彼を想って心も身体もつぶれそうなほど辛かった日々も、無駄
ではなかったのだ。
「真澄ちゃん、ごめんね。わたしだって真澄ちゃんと仲直り出来て嬉しかった
よ。これからは昔みたいに楽しく過ごせるかもって、そう思った。でも、でも。
マミが真澄ちゃんのことが好きだって聞いて。それに、転校するかもしれない
ってことも言ってて。いろんなことが重なって、うまく説明できないまま、真澄
ちゃんにマミのことお願いしてしまった……。あのね、わたしね、わたし……
真澄ちゃんのこと」
「もういいよ。おまえ、ずっとヒヤヒヤしてたんだろ? 俺と大園がいつ別れる
かって。もしそうなったとしても、ゆうには何の責任もないから。俺の努力が
足りなかっただけだから。だから、気にするな」
優花は今こそ自分の本当の気持ちを伝えるべきだと思ったのだ。なのに
話が違う方向に行ってしまう。
「真澄ちゃん。そうじゃなくて。わたし、わたし。真澄ちゃんのことが……」
「なあ、ゆう。俺な、今夜から、長野に行くんだ」
「え? 長野? 」
あと少しで伝えられたのに。好きです、とその一言を言いたかっただけ
なのに、吉永君が優花の一大決心をも揺るがすようなことを言い放った。
長野に行くって、いったい……。
「俺のじいちゃん、相当悪いみたいなんだ。医者に身内を呼んでおけって
言われたらしい」
その時、公園の隅っこの方に集まっていた落ち葉がカサカサと音を立て
一瞬のうちにつむじ風が巻き起こり、暗闇の中、ザーッと枯れ葉が空に
向かって舞い上がった。
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