そばにいて

 

 

20.いやだ、聞きたくない 2

 

 

 

 「え? 鳴崎に好きな人? それはないよ。だって一緒に委員をしてた時

 確かフリーだって言ってたよ。あの整い過ぎたきれいな顔をくしゃっと崩し

 て、恋人募集中って。あたしが冗談で立候補しようかなって言ったら、彼

 どうしたわけかマジになっちゃって。でもまあ鳴崎も、あたしのノリに合わ

 せてくれたってことだよね。そっか。優花にその気がないのなら無理強い

 はしないよ。クリスマスまで、まだ二カ月近くあるし、じっくり考えて。もし

 優花の気が変わったらあたしに言って。鳴崎はちょうど席も隣だし、優花

 のことを持ちかけるには絶好の環境だからさ」

 「う、うん。ありがと、マミ」

  麻美は全く勇人君のことは眼中にないようだ。なのに勇人君ったら、もう

 すでにどさくさに紛れて麻美にアタックしていたのだ。麻美は軽いジョーク

 として聞き流していたみたいだが、まさか彼が本気で麻美に好意を抱いて

 いるなんて思いもしないのだろう。

  恋って、どうしてこんなに切ないものなのか……。

 「さて、そこのお二人さん。そろそろ勉強しませんか? マミ先生に質問する

 なら、今のうちだよね」

  絵里が数学のプリントを広げ、難しい問題をピックアップして、麻美にすが

 りつく。二時間ほど真剣に勉強して、優花の母が仕事から帰って来た時に

 入れ替わるようにして二人が帰って行った。

 

  夕食も終えて、入浴後のちょうどいいタイミングで、着信音が鳴った。

  優花は濡れた髪をタオルでくるみ、スマホを手にする。そして、ラインの

 文面を見て、言葉を失った。

 

  優花。今日はおじゃましました。

  で、マミのことだけど、あの子、かなり

  苦しんでる。何があったかしらないけどね。

  それに、多分付き合ってないよ。吉永と。

 

             え? 付き合ってないって?

             どうしてそんなこと絵里にわかるの?

 

  キスの話だって、真相は不明。

 

             そんなことないって。

             マミはうそつくような子じゃないし。

 

  うん。あたしだってマミを信じたい。

  でもね、優花よりはマミと付き合いが長い

  あたしだから、わかるんだ。

  だから優花、吉永のこと、絶対に

  あきらめちゃダメ! 

 

             絵里!

             いくらなんでも、話が飛躍し過ぎだってば!

 

  それと……。

  ホントはね、あたし。

  先輩とはダメだったの。

  じゃあ、また明日。学校でね。

 

  スタンプも何もないシンプルな画面が、くっきりと優花の脳裏に焼き付く。

  もちろん、麻美のことは衝撃的だ。絵里は、付き合っていないと言って

 いたが、すぐには信じられない。あまり自分のことを話さない麻美だが

 以前吉永君のことを訊ねた時も、帰りはいつも家のそばまで送ってくれる

 し、毎晩ラインのやり取りも欠かさないと言っていた。

  しかし、絵里の直感が正しいのだとしたら。麻美が嘘をついていたこと

 になる。

  優花は昨日の繁華街での吉永君の態度を振り返っていた。普通、付き

 合っているカノジョを置き去りにして、自分だけ塾に行ってしまうなんて

 ことはありえないのではないか。本を買いに行く麻美と、塾まで一緒に

 歩いていただけだと言っていた吉永君の証言がクローズアップされて

 二人の本当の関係が見えてくるような気がした。

  絵里の言うように、二人は付き合っていないのかもしれない。

  結局、吉永君と麻美が順調に交際を続けていると思っていたのは

 優花の勘違いだったというわけだ。絵里はそんな麻美の行動の不自然

 さにいち早く気付いていた。だから勉強会の時もあれほどまでに真剣に

 麻美に向き合っていたのだろう。

  麻美のことをあんなに思いやって、その上、優花の恋までも応援して

 くれる絵里なのに。先輩とはうまくいかなかったと、そっと付け加える

 ようにして知らせてくれた絵里。

  みんなの前では全くそんなそぶりを見せずに明るく気丈に振る舞って

 いた絵里なのに、どうしてそんなことに……。

  優花は返信のメッセージをタップしかけただけで、涙でかすんで目の前

 が何も見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

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