そばにいて
20.いやだ、聞きたくない 1
「それは……。どうしてそんなこと聞くの? 絵里や優花には関係
ないでしょ? 」
「そんなことない。ねえ、今すぐ言ってよ。いいじゃない、それくらい
教えてくれたって。あたしたちさ、マミのこと、こんなに応援してるん
だよ。ねえ、言ってよ」
「…………」
麻美は固く口を閉ざしてしまった。
「ねえ、マミ。やっぱ、キスくらいは、したよね? ねえ、どうなの? 」
き、キス……。麻美が。吉永君が。この二人がそんなことをしてる
なんて、考えたくないし、聞きたくもない。優花は手で耳を塞いで
しまいたい衝動をやっとのこと抑える。
「絵里……。あの……。した……かも」
麻美がしどろもどろになりながらも、そう答えた。絵里の考えている
ことが全くわからない。ここまでして麻美を追い詰めて、この先どう
したいのか、優花には理解できなかった。麻美がかわいそうだ。
「かも? かもって何よ。キスしたか、しないかの、どちらかしかない
でしょ? 気を失って記憶があいまいなんて言い訳は、聞きたくない。
あたしはそんなの信じないから! 」
絵里が執拗に食い下がる。
「わかった。言えばいいんでしょ、言えば! キス、した。したのよ。
したわ。ちゃんとキスした。だって、あたしたち付き合ってるんだもん。
したって誰も文句言わないよね」
真っ直ぐに顔を上げて、絵里に向かってはっきりと言った。キスを
した、と。優花ももうすぐ十六才だ。恋人同士になれば、そういうこと
もするのだろうと、何となく想像はつく。麻美と吉永君は付き合って
いるのだから、不思議でも何でもない、普通のことなのだ。
という風に頭ではわかっていても、麻美の口から直接聞かされると
胸が痛む。鼻の奥がツンとして目の前がぼんやりしてくる。
本当はこんなこと、聞きたくない。吉永君が誰か他の人と心を寄せ
合ってそんなことをしているなんて、イメージするだけでも気分が悪く
なってくる。唇を強く噛みすぎたせいで、口の中に苦い血の味が広が
っていく。麻美があまりにも毅然とした態度でキスを肯定したので
絵里も勢いを失くしてしまった。
「マミ、ごめん。こんなこと無理やり言わせてしまって……。あたしって
ひどいよね。悪かったと思ってる。でも、最後にひとつだけ。お願い。
正直に答えて。吉永とは、本当に付き合っているんだよね? 」
絵里は冷静さを保ちながらも、核心をつく質問を投げかける。
「絵里? もうこれくらいにしようよ。たった今、き、キスしてるって麻美
が言ったばかりだよ。なのに、どうしてまだ疑ってるの? 」
「優花は黙ってて。ねえ、マミ。どうなの? 付き合ってるの? 」
絵里は一歩も譲らない。麻美が絵里をじっと見つめながら重い口を
開いた。
「……付き合ってる。真澄君と、ちゃんと付き合ってる。テストが終わっ
たら、遊びに行こうって、約束も……してる」
麻美が抑揚のない声で言い終えると、すぐに絵里から目を逸らせた。
「そう、なんだ。わかった。マミ、疑うようなこと言ったりして悪かった。
でも……。もし、何か困ったことや悩んでることがあったら、何でも言って
よね。あたしも優花も相談に乗るからさ」
絵里が震えている麻美の手に自分の手を重ねる。
「絵里、ありがと。その時はよろしくね。今はまだ、大丈夫だから。カレ
とはこれからだもん。もっともっと思い出をいっぱい作って、二人の時間
を大切にするんだ」
「そっか……。マミはわたしたちより、一足早く大人に近付いたんだね。
なんだかわたしも、早くカレシが欲しくなっちゃった。いいな、マミが
うらやましい……」
みんなに胸を張って紹介できるような素敵な人に早く巡り会いたいと
優花は本当に心からそう思ったのだ。
「やだ、優花にはピッタリな人がいるでしょ? 」
麻美が険しかった表情を緩めてそんなことを言う。ピッタリな人? 誰
のことだろう。優花はしばし思案顔になった。
「ほら、あの人だよ。鳴崎勇人。最近、優花とよく一緒にいるよね。彼なら
あたしのおススメ物件だよ。クラスでも人気あるし、いいヤツだしね。
優花だってまんざらでもないんじゃない? 」
はやと君……。優花は今の麻美の言葉をしっかりと受け止め、決意を
新たにする。昨日のミコとサリといい、そして今日の麻美といい。勇人
君との仲をこれほどまでに疑われるのには、やはり自分にも原因が
あるとしか思えない。明日からは誤解されないように気を付けようと
心に誓った。
それにしても、麻美の口から出たこの話を勇人君が聞いたらどう思う
のだろう。いやいや、絶対に聞かせられない。好きな女の子から一番
言われたくない内容だ。彼が気の毒すぎる。
麻美の言う通り、勇人君はいい人だと思う。優しくて頭も良くて、その上
イケメンだ。でもだからと言って、彼を男性として好きになるとは限らない。
いじわるで、冷たくて、怖い顔をする人を好きになることだってある。
人生って不思議なものなのだ。
「マミ。わたしね、鳴崎君のことは、ただの部活仲間としか考えられない
んだ。好きとか、付き合うとか。そんな風に思うことはできないよ。多分
これからもずっと、鳴崎君とは友だちのままだと思う。それに第一、鳴崎
君にも好きな人がいると思うし、ね? 」
たとえ、優花が何かの拍子に勇人君を好きになったとしても、不毛な
恋になるのはわかりきったこと。彼が好きなのは、麻美なのだから。
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