そばにいて

 

 

19.恋愛談義 1

 

 

 

 

 「でさ、先輩ったらね、わからないところがあったら、いつでも電話

 してきてって。えへへへ。ラインも電話番号も難なくゲット! 」

  絵里が優花と麻美の前で大きくピースサインをしてみせる。昨日

 あこがれの先輩と図書館で勉強した絵里は終始ご機嫌だ。

 「絵里、やったね」

 「うんっ! 」

 「それで、電話したの? 」

  絵里はきっとこのことを真っ先に訊いて欲しいはず。もちろん電話

 したよと答えが返ってくるのはわかっていても、一応訊ねてみるのが

 親友としてのお約束だ。この調子だと、やり取りしたラインだって見せ

 てくれそうな勢いだ。

  優花と麻美は身を乗り出して、絵里の右手にあるスマホを覗き

 込んだ……のだが。

 「電話なんて、するわけないじゃん。ラインだってね」

  絵里は澄ました顔をして即答する。するわけないって、いったい

 どういうことだろう。予想外の返答に麻美と顔を見合わせた。

 「ちょっと、二人とも! 別に心配いらないって。あのね、これは恋愛

 テクニックのひとつなの。うちのアネキの常套手段なんだけどさ、ある

 一時期、すーっと彼から遠ざかるの」

 「遠ざかる?? 何、それーーっ! 」

  麻美とほぼ同時に声をそろえて驚嘆する。

 「やだ、二人してそんなに大声出してさ」

 「だって、やっと個人的に連絡できるようになったばかりなのに

 どうしてそんなことするのか、信じられないんだもの」

  麻美が絵里の言動に首を傾げる。

 「このやり方、結構使えるんだってば。カレへのアタックを突然辞める

 の。するとね、今度は向こうが焦りだすんだって。自分は何もしなくても

 相手が勝手に言い寄ってくるんだって、のうのうとあぐらをかいている

 ところに、急に魔の静寂が訪れるってわけ。待てど暮らせどカノジョ

 からは何の音沙汰もなし。どうなってるんだって、カレが慌てだす……」

 「なるほど。恋の駆け引きだね」

  麻美が腕を組み、大きく頷く。

 「そういうわけ。どう? 効き目ありそうじゃない? この作戦で一定期間

 先輩のリアクションを待ってみようと思うんだ。今こそ我慢の時だと思う。

 あたしの声が聞きたいなって、そう思ってくれたら、大成功ってわけ」

  相変わらず絵里の唇のグロスは濡れたようにツヤツヤと光っている。

  初めて付けて来た日からもう三回も色が変わった。お姉さんのポーチ

 から次々と拝借しているのに、まだ絵里のお姉さんはそのことに気付

 いていないらしい。お姉さんっていったい、グロスを何本持っているの

 だろう。優花は女子大生になるのがほんの少し恐ろしくなった。

  学校が終わった後、テスト勉強という名目で優花の部屋に三人で

 集まっている。妹の愛花は二人に合せる顔がないのか、自分の部屋に

 閉じこもったまま、まだ一度も姿を見せていない。

  吉永君が麻美と付き合っていることも、すでに愛花の知るところとなった。

  最初はブツブツと不満を口にしていたけど、あきらめたのか、今はもう

 何も言わなくなった。お姉ちゃんって、結局モテないんだね、と最後に捨て

 台詞を残して……。

 

  部屋の真ん中にのミニテーブルに、一応教科書が積んであるけど、まだ

 誰もそれを手にしていない。絵里の恋愛談義がますます佳境に入り、今は

 それどころではないからだ。

  絵里の大好きな人がわざわざ時間を作ってマンツーマンで勉強を教えて

 くれたのだ。ということは。先輩も多少なりとも絵里に興味があると思っても

 いいだろう。

  ではなぜ、もうお互いに気持ちは通じ合っているはずなのに、電話もライン

 もしないのだろう。そこが不思議で仕方がない。

  相手の気持ちを確かめる作戦だか何だか知らないけれど、そこまで我慢 

 する必要はないはずだ。多分今夜あたり、心配になった先輩から連絡が

 入ると思う。絵里みたいな美人でしっかり者の後輩が彼女になるかもしれ

 ないこの絶好のチャンスを逃すなんてことはまずありえない。先輩だって

 嬉しいに決まっている。この二人の未来はもう保障されたも同然だと優花は

 信じて疑わなかった。

  ハイテンションな絵里を部屋に残し、優花と麻美が台所におやつを取りに

 行った。手伝うね、と言って優花と一緒に部屋を出た麻美だったが、ヒロと

 優花がその後どうなったのか知りたかったのだろう。

  案の定、麻美にヒソヒソ声で訊ねられる。

 「ねえねえ優花、昨日、あの後、どうなった? 」

 「あ、あのことね」

  きっと聞かれるだろうと覚悟していた優花は、昨夜からあれこれ考え抜いて

 簡潔かつ明解な答えを用意しておいた。吉永君は、絶対に優花を助けたなど

 とは麻美には知らせないはずだ。だからその部分は、彼女には話さないと

 決めた。自分の彼氏が親友と関わったとわかれば、誰だっていい気はしない

 はずだから。なので優花はにっこり笑ってこう言った。

 「隙を見てダッシュで逃げ出して、バスに飛び乗ったんだ」 と。

  嘘じゃない。本当のことだ。逃げて、バスに乗ったのは真実だ。

 「うわーー。優花、やるね。優花って足早かったもんね。そっか、逃げたんだ。

 あの、なんか軽い感じの付属の子、優花とは合わない感じがしたんだもん。

 付属っていろんな子がいるんだなって思った。あたしが行ってる塾のクラスに

 も何人かいるけど、みんなそろいもそろってめっちゃ生真面目だから、よけい

 にびっくりしたんだ」

  よかったね、ホントによかった、と優花の無事を自分のことのように喜んで

 くれる。優花はかわいいんだから、よく知らない人に言い寄られないように

 気をつけて、などとお世辞まで言ってくれる。

  麻美は相変わらず控えめだ。絵里が次々と先輩の話を披露するにもかか

 わらず、吉永君のことは何も話さない。付き合ってまだ日が浅い今が一番

 楽しい時なのに、自慢一つしない。その徹底ぶりに頭が下がる。

  そんな麻美を悲しませることだけは、何があっても避けたい。

 

 

 

 

 

 

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