そばにいて
2.ベストスリー 1
絵里がささやいた男子の名前は。
それは優花がこの世で一番敏感に、まるでパブロフの犬みたいに
条件反射してしまう名前、吉永真澄……だった。
「吉永ってさ、まだ校内ではそんなに騒がれてないけど
うちらの学年で三本の指に入ると思うんだ」
絵里が声をひそめながら得意げに言う。
「さ、三本の指? それってモテる人、上位三人ってこと? 」
「うーん。もちろんそれもあるけど、はっきりとモテ出すのは
もう少し先だと思う。そうじゃなくて、イケメンランクが
ベストスリーってこと。だって彼ってかっこいいじゃん。
もしあの目で見つめられたら、あたしだって、ときめきすぎて
息が止まっちゃうかもしれないよ」
優花は焦った。絵里が吉永君にときめいたら、到底
勝ち目がない。
お願いだから彼を好きにならないでと、一生懸命、目で
訴えかける。
「だからさ、あたしはマミって見る目あるなって思ったんだ。
そうそう、優花は吉永と同じ中学出身だよね。今度マミに
情報提供してあげれば? 」
絵里は優花の心配をよそに、どんどん話をエスカレート
させていく。情報提供と言われても困るのに……。
「何、ビクビクしてんの? なんか優花って、吉永に過剰反応
するよね。優花が吉永嫌いっていうのはわかっているけど
ちょっとくらいマミに協力しなさいよ」
絵里に吉永君が嫌いだと思われているのは正直辛いのだが
片思いがバレないためには、まず身近な絵里に悟られない
ようにするのが先決だから仕方がない。
だが麻美に協力するというのは、簡単なようで難しい問題だ。
友人のためだと言っても、初恋の人との仲を取り持つような
ことは優花には出来ない。
こういうことは最初にきっちり言っておく必要がある。
後で辛い思いをすることになるのは目に見えているからだ。
この際、友だちとは思えないと言われてもいい。
優花は覚悟を決めた。
「情報、っていっても、わたしは何も、し、知らないし。本当に
吉永君のことは、何も知らないんだ」
優花はきっぱりと言い切った。ここは、知らぬ存ぜぬで
くぐり抜けるしか道はない。
その時だった。こそこそと麻美の恋バナをしている二人の
頭上を人影が覆ったのは。
「おい……。これ」
突然優花の横にぬっと現れたその人影の主は、彼女の目の前に
見慣れた包みをぽんと置いたのだ。
それは、ピンクのバンダナで包まれた、二段重ねの弁当箱。
どうして弁当箱がこんなところにあるのだろう。どこかで落としたの
だろうかと首を傾げながら、恐る恐る、その親切な人物を見上げた。
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