第二十四話





 デニム地のエプロンを身に着け、よし、と気合を入れる。何時に帰るとは知ら


されていないが、三時前くらいではないかと予想した。


 その根拠はこうだ。美容室にはカットやパーマに行くのではないとみている。


というのも、今はすでに午後の十二時を過ぎているので、三時前には家に着い


ていると逆算すれば、美容室への滞在時間はどんなに多く見積もっても二時


間以内だ。客人とも待ち合わせる時間を組み込めば、一時間くらいしか美容室


に時間を割けないだろう。


 ということは、セットのみだろうと大方のアタリを付ける。庶民にはセットのみ


で頻繁に美容室に行くことなど考えられないが、周子さんに限ってはそんなこと


も普通に日常に組み込まれているような気がする。いや、絶対にそうだ。


 多実衣はまず庭に出て、玄関アプローチの落ち葉や雑草を取り除くことにし


た。


 が、掃除道具がどこにあるのかわからない。とにかく、何の説明もないまま急


転直下でこの家の嫁になってしまった多実衣にとって、クリアしなければならな


い関門は、あまりにも膨大過ぎた。


「そうだ!」


 突然大きな声を上げた多実衣は、東にあるもうひとつの玄関に向かった。そ


この右横にストッカーのようなものがあったのを思い出したのだ。


 悠長に歩いている暇などない。全速力で走ってストッカーに向かう。それはサ


ブ玄関の横のハナミズキの木陰にひっそりと設置してあった。


 中を開けると。


 あった。ほうきや塵取り、スコップに手袋と、庭仕事に必要な物がそろってい


た。きちんと整頓してある。きっと佑美が整えていたのだろう。


 多実衣は手袋をはめ、ほうきを握り、ポケットには落ち葉を入れるビニール袋


と雑巾を数種類携えて、庭掃除に取り掛かった。


 時間配分では、ここは十五分ほどで終わらせなければならない。全部をきれ


いにするのは無理なので、客人が通るであろう道筋周りを重点的に掃き清め


。漫画の早送りビデオ画面のように、超スピードで動き回った。子どもの頃、


実家の庭の掃除を父に鍛えられていたのが役だったようだ。なんとか時間内に


済ませることが出来た。


 次に玄関を掃き、水拭きをしなければならない。本当ならじゃばじゃばと水を


流したいところだが、乾かす時間がないため、今回は拭くだけにとどめた。


 そして次は別の固く絞った雑巾で玄関から続く廊下を拭き上げ、ピカピカに


なった上り口にスリッパを並べた。


 サブ玄関とは違い、この正面玄関にはちゃんと季節のスリッパが準備されて


いた。これも佑美がやってくれていたのだろう。


 棚を全部拭き上げ、窓も乾いた布で磨いた。とにかくマッハのスピードで、掃


除を進めていく。すべて終わった時には、すでに二時前になっていた。


 本当は一時過ぎに終えたかったのだが、昨日先輩が言っていたとおり、汚れ


がたまっていたのもあり、予定をオーバーしてしまった。


 いよいよ夕食作りに取り掛かる。今から買い物に行くなんてことは、当然のご


とく不可能だ。あわてて冷蔵庫に向かい、中身をチェックしてみた。


 朝食を作った時に、だいたいの内容は把握したつもりだったが、夕食を作る、


それも、おもてなし料理を作るには、ほど遠い食材のストック状況だった。


 けれど文句を言っている場合ではない。とにかく多実衣なりにできる最大限


の力をふりしぼって夕食作りにいそしんだ。